十月毎日小説執筆企画まとめ

2024年10月5日

目次
  1. 概要
  2. おごりがい
  3. ケーキ
  4. 悪魔のささやき
  5. 捨てられない
  6. 意外な要望
  7. 赦し
  8. 家を燃やして
  9. 人間のふり
  10. エゴの献身
  11. 死の選択肢
  12. 悪魔の墓参り
  13. 天使の墓参り
  14. マニアの中のマニア
  15. 悪魔的ゲーセン
  16. 勇気と男気
  17. 誘惑
  18. 生者たちの答え
  19. 一手違えば
  20. 人生ゲーム
  21. 未来の過去の人
  22. 使わざるべき才能
  23. 約束しよう
  24. 夢からの贈り物
  25. 支配
  26. 純粋な
  27. 純粋に
  28. 幸福を願う
  29. 不安の影
  30. また会う日まで
  31. 特別な日
  32. ハロウィン
  33. おまけイラスト

幸福を願う

2024/10/27
とな天

「別にボクら、諦めてはないよ」

いつもの金兄なら吠えただろう。視線を掲示板に戻し「そうか」とつぶやいた。

廊下には夕日と影の格子模様。掲示板のポスターはボクが描いたものだ。仮装したキャラクターとカボチャのランタン。本来なら訪れるはずのなかった祭り。

九月一日より先のボクらは、きっとこんなに穏やかではなかった。

「お前は今の時間、好きか」

「らしくない質問だね」

「オレは好きだぜ」まっすぐな声。

「……ボクも好きだよ」迷う声。

冷たい風が薄く通り抜ける。日に焼けるポスターの横で自分の影が揺らめく。

「好きだからこそ怖い。ずっと続くわけないんだから。今までだってそうだったろ」

ボクより大きく伸びる影が細くなる。

「そうだ。だがオレたちはそんな時間を望んでいる。それは嘘にならねぇ」

廊下が暗闇に落ちていく。横目に見上げる。黒い影をボクは直視できない。知ってか知らずか、金兄は腰を落とす。

「オレたちは幸せになる。幸せが何度終わろうと、願う奴がいる限り諦めない。何度だって掴み直す」

オマエの目が想像できるよ。黒く沈んだ紫の瞳に、わずかな光が浮かんでいる。少し見開いて、瞬きも無くこちらを見つめているのだろう。それはあの人と違う瞳だ。

オマエはずっとオマエなんだな。

ボクは背を向けて歩き出す。

「じゃ、やってみれば。少しだけなら待ってあげるよ」

廊下の電気を付ける。明暗の境を踏み越えて、ボクは影の中に紛れた。

tarot
the sun / 4 of cups Rx. / the star Rx.

不安の影

2024/10/28
とな天

もう一度未来を選べるなら。

その一言に、弥くんは困った眉のまま笑おうとしていた。

空は赤と紫に割れている。太陽は山に陰る寸前まで今日最後の光を放っている。きみと俺の一面を強く照らし、道を越えて空っぽの田んぼまで影が伸びる。時々きみと歩幅を合わせようとして、俺の影の肩がきみの影の腕をかすめる。

俺は自分の言葉に付け足していく。

「悩まない人はいないと思う。俺もそうだから。それでも俺は、もう一度未来を選べても、同じ未来を選ぶ。俺の選んだ未来を愛しているから。他の未来は他の俺が愛しているだろうから」

弥くんは太陽から少し顔を背ける。田んぼを覆った茂みが晴れ、長く、濃く、影が伸びる。

「僕も迷う」

道先に視線を落としてつぶやく。

「それでも、本当に、もう一度未来を選べるなら、僕は違う未来を選ぶ。もっと幸せになる選択があったんじゃないか、そう思えて仕方ないから。僕は僕として幸せになりたいから」

「……そっか。きみの幸せを願う気持ち、知れてよかった」

弥くんはまぶたで瞳を押しつぶすように目尻を引いて、小さく笑う。

「君はいつだって強くて、尊敬する。僕には無いものだから」

岐路に立つ。きみは西へ、俺は東へ。手を振れば、きみは大きく手を上げ返し、道の角へ消える。

影は光の輪郭が薄れて全て夜になる。もう誰もきみの影を知らない。

tarot
4 of pentacles / 3 of wands Rx. / the sun

また会う日まで

2024/10/29
愛まほ

死者の国は生者のためにある。

店長が説いた言葉に驚きつつも納得した。その言葉は、後ろ向きで、前向きだった。

古本屋未来堂は形を変えつつある。改装というわけではない。毎日外を掃除したり、おすすめの本を置くコーナーを作ったり、イスと机を置いたり。

少しずつ客が来るようになった。薄暗くほこりに満ちていた店内は、人の気配が出入りするようになり、時々静かな談笑が聞こえるようになった。

俺も時々客と話す。運動会で起きた笑いある事件、野菜の値段、どこの子どもが何をしたか。他愛ない話だ。でもこんな話すら今まで俺の人生に無かったものだ。

煙草を見る回数が減っていることに気がついていた。……後ろめたかった。

「それでいいのだよ」

店長が仏壇でおりんを鳴らす。澄んだ音が響く。俺の前で祈るのは珍しい。

「私たちには会いたい人がいる。今会ってはいけない人がいる。その人に見せたい姿がある。その姿こそ生きる意味なのだよ」

「……たとえ、もう一度会えなくても?」

「会えるかどうかではなく、会いたいかどうかではないかな」

俺は思い出す。ある人は、世界が終わる日、神の魔法で全ての死者が復活すると説いた。天国、地獄、輪廻。死後の想像はみな生者のものだった。またある人は説く。宗教とは、納得して死ぬためにあるのだと。

胸ポケットに触れる。どれだけ幸せになっても俺が煙草を手放す日は来ないだろう。きっとそれでいい。

もう一度会えたらこの煙草を返すよ。それまではあの世で禁煙でもしてろよ。

tarot
queen of pentacles / 4 of cups Rx. / the hanged man Rx.

特別な日

2024/10/30
悪たし

商店街の空を横切るガーランド。花壇や店先に置かれたカボチャの数々。オレンジ色の電灯が夕暮れの中でほのかに光る。ハロウィンを前日に控え、町は浮かれていた。

『ねぇねぇ正継』

黒永が数回腕を揺らす。揺れた方を見ると、かぼちゃ型の紙製サンバイザーを被った子どもたちが歩いていた。辺りをよく見ると、ネコ耳やおばけもいる。サンバイザーの片隅に商店街のマークがあった。

『あれ欲しい!』

『あんなん結局ゴミになるだろ』

『やだあ~欲しい~欲しいよ~』

俺はため息を吐く。道中でサンバイザーを配っている人がいた。かごから魔女帽子型のものを受け取り、頭に付ける。

『オレ、ちょっと驚き』

『はあ?』

『まさか付けてくれるなんて』

自分でも驚く。確かに昔の俺なら、よしんば貰っても付けはしなかっただろう。

サンバイザーを付けたまま町を歩く。頭を締める紙の感触に慣れない。道行く人の頭を見る。あの人はかぼちゃ、あの人はネコ。それっぽいな、意外だな。いつもとは違う目で世界を見ているような気分だ。

バックミュージックのワルツに合わせて足が浮く。俺も十分浮かれている。でもこの感覚は、悪くない。

『かぼちゃ料理でも買って帰るか』

『いいね! お菓子も買お』

『あんま食い過ぎんだよ、俺のカロリーになんだから』

ふてくされる黒永に笑いが漏れる。ま、たまにはいいよ。今日は特別な日だからな。

tarot
4 of pentacles / queen of pentacles / queen of wands

ハロウィン

2024/10/31
とな天・愛まほ・悪たし

俺の二倍以上背のある老魔女が、聞いたことのない異国の呪文と共にお菓子をくれる。オレンジ色のカボチャのあめで、少し透けて淡く光っている。「ありがとう」と言うと、軋んだ声で笑い返してくれた。

今日は町でハロウィンのお祭り!

……なんだけど、ちょっとしたアクシデント。ニシくんいわく、神様の世界で問題が起こって、いろんな世界の人がこの町に集まっちゃったんだって。だから俺より小さい小人や、ミイラ、悪魔の翼が生えた牛、いろんな生き物が集まっている。

これはすごいチャンスだよ。

今日のお祭りは、皆お菓子を持って参加する――持ってない人は受付で貰うこともできる。いろんな人とお菓子を交換して、たくさん集めた人が優勝だ。

絶対優勝するぞ。いろんな世界の生き物とお菓子も楽しみだ。

ハロウィンの楽しみ方は人それぞれ。

佐久真さんは魔法に触れないらしい。でも今日は魔法が効かなくなるお菓子を貰ったから、好きなだけお菓子を食べるんだって。煙草型のお菓子を交換してもらったよ。

安藤さんはおしゃべりも楽しんでる。知らない世界の知識が面白いんだって。「何に使うわけでもないけど」って苦笑いしてた。赤くて辛いチョコを交換してもらった。

用意してたお菓子は全部無くなっちゃった。代わりに色とりどりの不思議なお菓子がかごをいっぱいにしてる。何十個交換しただろう。これは優勝に違いない!

最終的に、俺は準優勝。優勝はお菓子の世界の商人。即興お菓子市場で自分の世界のお菓子を売りさばいたって。そんなあ。

――来年こそは優勝するぞ!

tarot
the world / wheel of Fortune / the fool


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