十月毎日小説執筆企画まとめ

2024年10月5日

目次
  1. 概要
  2. おごりがい
  3. ケーキ
  4. 悪魔のささやき
  5. 捨てられない
  6. 意外な要望
  7. 赦し
  8. 家を燃やして
  9. 人間のふり
  10. エゴの献身
  11. 死の選択肢
  12. 悪魔の墓参り
  13. 天使の墓参り
  14. マニアの中のマニア
  15. 悪魔的ゲーセン
  16. 勇気と男気
  17. 誘惑
  18. 生者たちの答え
  19. 一手違えば
  20. 人生ゲーム
  21. 未来の過去の人
  22. 使わざるべき才能
  23. 約束しよう
  24. 夢からの贈り物
  25. 支配
  26. 純粋な
  27. 純粋に
  28. 幸福を願う
  29. 不安の影
  30. また会う日まで
  31. 特別な日
  32. ハロウィン
  33. おまけイラスト

未来の過去の人

2024/10/20
とな天

転生者の次は未来人かよ。よりにもよって未来のボク。

ボクより少し背が高く、少し肩幅が広い。前髪は眉までしかなく、白んだ瞳孔と青いあざがよく見える。後ろ髪はしばっている。

コイツ、ひーくんになれなれしい。ひーくんちに転がりこんで、勉強を教えたり、一緒に飯食べたり、すぐ距離を近づけやがった。ひーくんもちょっとは警戒してよ。

ボクは、未来人への好奇心より、危険分子への敵対心の方が強かった。

「結局、嫉妬でしょ」未来のボクが笑う。

縁側に座る未来のボクと対峙する。ボクは鼻を鳴らす。

「違うね。ひーくんを助けられなかったくせに、ひーくんの隣でヘラヘラしてる自分が許せねェんだよ」

「それが嫉妬なんだよ」あぐらにもたれかかる。「まさに今のキミじゃないか。黒井に迎合して、ひーくんを危険な目に遭わせて、ひーくんに釣り合わない自分にムシャクシャして、ボクに当たってるだけだ」

「助けられなかったことは否定しねェんだ」

「どうだかね」細めた目に影がかかる。

ボクはボクを指す。目頭に力を込める。

「いいか。オマエはとっくに過去の人。ひーくんを助けられなかった惨めな過去。ボクは違う。ひーくんを助けて、ひーくんの未来になってみせる」

ボクはボクにひらひらと手を振る。

「せいぜいがんばりたまえ、無力なボク。さて、ボクは今日の夕飯でも作ろうかな。ひーくんの大好きな味噌汁をね」

部屋へと消える背中に向けて盛大に叫ぶ。

「テメエの下手くそな泥水食わせんじゃねェッ!!」

tarot
9 of wands / queen of wands / 5 of cups

使わざるべき才能

2024/10/21
悪たし

たいへん! 誰でもヤンデレボタンを押したら正継がやんでれになっちゃった!

「ところでやんでれってなに?」

「愛が重くて極端な行動をする奴のことだ」

「あっ正継包丁持ってる、あぶないよ」

「そろそろ置くわ。持ってると疲れるし」

正継はキッチンに包丁を戻す。

「やるなら効果的に脅迫すべきだ。包丁なんて愚の愚だな」

「正継いつもと変わんないね」

「そりゃな」キッチンに寄りかかる。「俺がヤンデレする意味って無ぇし」

「どゆこと?」

「お前、俺以外の人間と友達になるか?」

「ならないよ!」

「俺が来いって言えばいつでも来るか?」

「そりゃね!」

「俺が死ぬって言ったら着いてくるか?」

「うん」

「ほらな」手と腕を広げてみせる。「すでに掌握してることに執着する意味無ぇんだよ」

「わかんないけどわかった!」

オレはほっと一息吐く。

「な~んだ、ボタン押しても平気だったね」

「だな。ところで、ボタンは誰から貰った」

「他の悪魔だよ!」

「へぇ。お前、俺以外の悪魔とつるむんだ」

ん? 表情が止まるオレに正継は笑う。

「じゃあ俺と絶交しても平気だよな?」

「ええと……、正継、言ってる意味がわかんないよ」冷や汗が出る。

「だから言ってるだろ」細める目に光が映らない。「脅迫ってのは効果的にすべきだ」

「……正継、ごめん。たぶんオレ、一番正継に使っちゃいけないボタン押した! すぐ戻すね」

tarot
the hermit / queen of swords Rx. / 2 of pentacles Rx.

約束しよう

2024/10/22
悪たし

オレが出した手は黒くて小さい。ぎゅっとした手から小指だけせのびする。小指にからまった指は、白くて大きくて太い。正継は小指に力をこめてやさしく笑った。

「いいよ。大人になったら友達になろう」

オレはパッと顔が明るくなる。手をブンブンふって、ぴょんぴょんはねて、とにかく体からパワーが出てきてしかたない!

オレは子どもの悪魔。小さい、弱い、あたまもわるい。おまけにひとりぼっち。

正継はすごい悪魔! 人間だけど悪魔なんだ。小さいし力も弱いけど、すごくかしこい。だってオレの名前を見やぶったんだから。こんな悪魔がいるんだってうれしくなった。正継は悲しそうな顔をしてたけど。

正継はうれしいみたいなあきれたみたいな顔でほおづえをつく。

「別に今友達になったってよくないか」

「だめだよ!」むっとする。ちょっとうつむく。「今のオレじゃ正継のとなりにいられないよ。オレだけかっこ悪いもん」

「お前らしいな」息っぽく笑う。

正継の手がはなれていく。手のゆくえを追っていた目が肩の方へ動いていく。肩と手がそっと重なる。

正継を見る。小さいひとみがちょっと上を向いて、眉はやわらかくこまっていて、小さい口をいっぱいに横に引いている。オレはこの顔を知ってる?

「俺はお前を一人にしない。だって俺は悪魔だから。何度でもお前を迎えに行くし、いつまでもお前を待つよ。だから、信じろ」

オレはくちびるを内側にまきこんで、目を絞りながらうなずく。キミの言葉がなつかしいのはなぜ? でもその言葉はオレにとって、なにより自信が持てることだった。

tarot
page of wands Rx. / 3 of wands / the fool

夢からの贈り物

2024/10/23
とな天

白い天井に光の筋が差している。細かいほこりが視界を横切る。遠くで足音が聞こえた。僕は寝返りを打ち、寝台そばの机のスマートフォンを操作する。普段起きる時間を過ぎていた。そのことに深い罪悪感を覚えないのが不思議だった。

リビングではヒサが朝食を用意していた。「おはよう」と言えば「おはよう」と返される。幾度となく繰り返されたやりとりだ。

食卓につく。チーズ付きトースト、味噌汁、焼き鮭、作り置きのキノコのサラダ。鮭の身をほぐす。艶のある身を口に含めば油が舌を滑り、塩気がにじみ出る。

食卓は静かだ。僕も君も喋る方ではないから、このくらいの距離感が落ち着く。食べ終われば僕は食器を洗い、君は別の片付けをする。一段落したら、テレビを見ながら、僕はコーヒーを、君は紅茶を飲む。

代わり映えのしない毎日だ。だがこの時間が痛く恋しいのはなぜだろう。

そうだ、とヒサが席を立つ。部屋から僕のピアスを持ってきた。僕は耳を触る。

「覚えてないの?」きょとんとする。「たまにはお手入れしようってなって、俺がやりたいって言い出したんだ」

ヒサの手からピアスを受け取る。指が触れたとき、手が一瞬ためらった。

ピアスを付ける。「どうかな」と耳を見せると、「いいね」と言って、にやりとする。

「弥くん」声が改まる。「夢の中の物は外に持ち出せない。だから夢であったことが本当だったかはわからない。でも、きっと、きみにあげた輝きは本物だよ」

ヒサは相変わらずおかしなことを言うな。そう言おうとして、言葉が出ない。景色が遠ざかっていく。僕はそこで目が覚めた。

tarot
king of swords / 6 of pentacles Rx. / 10 of pentacles Rx.

支配

2024/10/24
愛まほ

死んだ人間が復活した。こぞって集まるマスコミが注目に拍車をかける。白熱する人気と論議に伊方は涼しい顔をしている。いや、伊方じゃない。俺は伊方が死ぬところを見た。俺は見捨てた張本人なのだから。

噂がはやっていた。伊方は自分に寄る女を、文字通り食っているのだと。

伊方、のような誰かが家に上がり込む。彼は酒を片手にふらつき、鼻歌を歌う。座っていた俺は体がこわばる。

「お前、一体誰なんだ」

足が止まる。薄く目尻と口端を引く。

「オレは伊方終だ」

「嘘は止めてくれ」

腰を折り、ぐっと顔を寄せてくる。

「つれないな。せっかく蘇ったってのに」

伸びてくる右手に身構える。立てた指先から黒ずんで、彼の体はすっかり影に沈んでしまう。俺の額に指先が触れると、体ごと回るようなめまいに襲われた。

頭を抱えて這いつくばる。気持ちが悪い。思考が切り裂かれて、崩れて、ノイズ音に巻き込まれていく。吹き出る汗で自分が溶けてしまう気がする。

ノイズが形になっていく。そうだ、彼は伊方だ。伊方は体が黒くならないし、人を食べないし、死んでいない。助けてくれ。体がバラバラになりそうだ。

伊方の声が頭の中をきれいに通る。

「いいぜ。ただ約束をしよう。佐久真はオレを疑わない。幸せでいることを諦めない。全てオレに任せる。守れるだろ」

首を必死に振る。伊方の手が目を覆い、気絶する。終わり際に一言、耳をよぎった。

「さて、あと何度繰り返せば、覚えてくれるかな」

tarot
knight of pentacles Rx. / judgement / the devil Rx.

純粋な

2024/10/25
とな天

滑り台を立ったまま滑り「どうだ」と誇らしげにする、馬鹿な男。雑に切った髪とみっともなく焼けた肌は昔から変わらない。そう、昔から。僕より頭一つ低いキンセイは現代の何もかもを忘れ遊びほうけていた。

僕は子ども化したキンセイの世話を押しつけられ、しかめっ面でベンチに座っている。そんなことはお構いなしに、キンセイはブランコに飛び乗って立ちこぎする。

「黒吉ー、ちゃんと見てろよー」

そう叫ぶと、立ったままブランコから飛び降り、腕を広げて着地する。僕は舌打ちする。腰を上げ、キンセイに歩み寄る。

「手本を見せてやる」

ブランコのチェーンを数回引っ張ってから、座板に飛び乗る。最初は小さく、段々大きく揺らす。キンセイの目が僕を追いかける。体と地が並行に近づく。足が揺れの頂点になる直前を見極め、膝を折り、眼前へ飛び出す。柵を越え、着地する。背と腕を広げる。

「すげー……」漏れた声が強まる。「すげー! 黒吉、手前そんなことできたのか」

キンセイが僕の腕を引っ張る。

「オレにも教えろよ!」

「子どもには教えない」

「んだよケチ!」

吐き捨ててブランコに戻ると、「オレだって」と言いながらこぎ出した。

僕は柵に腰を下ろす。むずがゆい感情で眉を押さえる。僕らしくないことをした。

キンセイは先ほどより力強く体を動かしている。隣で空のブランコが揺れている。

眉間に力を入れ、左口角を上げる。もっとも純粋な僕たちはきっとこうだった。僕らは何を間違えたんだろうな。

tarot
5 of cups Rx. / the sun Rx. / 10 of pentacles Rx.

純粋に

2024/10/26
とな天

水槽から青が照る。眼前を横切る魚たちの背がきらめく。水の中にいるようだ。

平日の水族館には意外にも人がいる。水槽をじっくり眺める客、はしゃいで魚の特徴を叫ぶ客、さっと歩いて行く客。その中でもとりわけ歩みが遅いのは、オレの頭一つほど低く、黒い坊ちゃん刈りで水槽のプレートを覆い続ける、ませた男。

「なに見てんだ?」

黒吉はしかめた顔を隠そうともしねぇ。一言「ウナギ」と言って顔を戻した。オレは力んだ口内を緩めて、隣の水槽を見る。

子どもになった黒吉を半ば無理矢理家から連れ出したのはオレだ。だが結局楽しんでるじゃねぇかと言いたくなる。相手は子どもとわかっちゃいるが。

黒吉がポツリとつぶやく。

「お前はいつもこうなのか」

「こうって」

「好きなときに好きなところへ行くのか」

「まあな、車もバイクもあるし」

「そうか」目を伏せる。「大人はどこにでも行けていいな」

つっかえたオレに、黒吉は眉根を寄せて笑う。「忘れてくれ」と残し、歩き出す。

オレは黒吉の後を追いつつ、考える。手前は昔から大人びていた。手前の言葉を子どものオレは理解してなかったし、おそらく今もできちゃいねぇ。

オレには昔から嘘か本当かしかねぇ。真実を言うことは必ず正しかった。大人になって、言う真実と隠す真実を覚えちまった。

眉を落とし、唇を引く。かつて、オレはオレなりに、手前は手前なりに、純粋に、本音を言えていたのだろう。オレらは何を間違えたんだろうな。

tarot
5 of cups Rx. / the sun Rx. / 10 of pentacles Rx.


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