十月毎日小説執筆企画まとめ

2024年10月5日

目次
  1. 概要
  2. おごりがい
  3. ケーキ
  4. 悪魔のささやき
  5. 捨てられない
  6. 意外な要望
  7. 赦し
  8. 家を燃やして
  9. 人間のふり
  10. エゴの献身
  11. 死の選択肢
  12. 悪魔の墓参り
  13. 天使の墓参り
  14. マニアの中のマニア
  15. 悪魔的ゲーセン
  16. 勇気と男気
  17. 誘惑
  18. 生者たちの答え
  19. 一手違えば
  20. 人生ゲーム
  21. 未来の過去の人
  22. 使わざるべき才能
  23. 約束しよう
  24. 夢からの贈り物
  25. 支配
  26. 純粋な
  27. 純粋に
  28. 幸福を願う
  29. 不安の影
  30. また会う日まで
  31. 特別な日
  32. ハロウィン
  33. おまけイラスト

マニアの中のマニア

2024/10/13
とな天・悪たし

あの本よかったよな。二五六ページの四行目。あれって著者の親友の言葉なんだ。あのまぼろしの画板の裏に書き殴ったやつ。ここまで言って通じる人間がこの世にどれだけいるだろう。ましてや口頭で。

「そっち!? ボク小説の方かと思っとった」

PCの通話アプリから聞こえる若々しい声。ビデオは無いが、「日ざし」くんの興奮は耳に伝わる。

「さすが『本口』さん、マニアックやね」

俺は照れつつ内心舞い上がっていた。伊達に本まみれの部屋に住んでいない。

最近ネットで知り合った日ざしくんは、畑違いだがお互い本好きで意気投合した。俺は早口で続ける。

「小説は百ページかな。没作品『曇天道楽』の原稿を貰ったお礼のオマージュなんだ」

「へえ! そういえば曇天道楽って出版されとるらしいで」

「え、知らん! どこ情報」

「没落評論家速報」

「いやデマサイト!」ついノリツッコミが出る。「半分はデマで有名なサイトじゃん」

「でも半分は当たるわけ。『――巧妙な嘘と杜撰な真実、君はどちらを信じる?』」

したり顔で演じる言葉は、少し遅れた電波の声と重なる。

「『そりゃあ私が作り上げた至上の事実さ』」

決まった! 額を抱えながら大きくため息を吐く。やっぱここは同作者の処女作『没落探偵』の四二〇ページ一行目だよな。

「没評速報もこれ載せてるから憎めない」

「わかるー」

そんな話を朝まで続ける。後で黒永に「なんでそんな話で盛り上がれるの?」と白い目で見られた。

tarot
qween of pentacles / 6 of wands / knight of cups Rx.

悪魔的ゲーセン

2024/10/14
とな天・悪たし

悪魔のゲームセンターに入ってしまった。経営者は悪魔、客もほぼ悪魔。暗い店内にネオン風のカラフルな光が浮かび上がる。一度遊ぶだけで法外な金額が飛ぶ。一度遊ばないと店を出られない。詰んだか……?

そう思った矢先、おれはある悪魔と対戦することになった。金は向こう持ちだと。

二メートル超えの身長。真っ黒な肌とスーツ。赤い角。黒永と名乗った。

端麗な顔が妖しく笑う。その顔は二時間後大きく崩れることになる。

黒永は格ゲーの筐体に突っ伏す。

「もー! なんで勝てないのー?!」

眉を寄せ、歯を食いしばり、腕全体で台を叩く。

「カモにできそうだから誘ったのに!」

「あ、そうなんだ」

「そのボケ顔腹立つ! もっと怒れよ!」

その罵り方は初めてだな……。

「とりあえずほら、負けたから」

「ぐぬぬ……」

黒永が差し出した顔に、おれはペンで丸を描く。今日だけで両手に収まらないほど丸を描いた。このゲーセンでは、勝者が指定したペナルティを敗者に与えられる。

「悔しい、悪魔なのにこんな生ぬるい罰」

「生ぬるくて良かったとはならないんだ」

「次は勝つ! 今度はこっちのゲーム!」

「そろそろ帰りたいんだけど……」

「オレが勝ってキミの魂を奪うまで続けるから」

絶対お断りしたいやつでは?

まあ、しばらく付き合うか。テキトーなとこで帰ろう。

tarot
ace of pentacles / the magician / ace of wands

勇気と男気

2024/10/15
とな天・悪たし

ひったくりを捕まえた。つっても俺は「ひったくりだ」と指を指して叫んだだけ。叫んだ次の瞬間、ショッピングモール上階から人が飛び降りて、ひったくりの首根っこを押さえつけてしまった。

警察に犯人を引き渡した後、捕まえた張本人に話しかけられた。縦幅も横幅も十分な褐色肌の男。学ランを肩に羽織り、いかめしい顔つきでこちらを見下ろす。

俺は身構える。彼は歯を見せて笑うと、少しかがんで俺の肩を軽く叩いた。

「サンキュー兄ちゃん、手前の勇気のおかげで奴を捕まえられた」

あっけにとられる。どもりながらも言葉を返す。

「いえ、俺は何も。ちょっと叫んだだけで」

「そのおかげで犯人の居所がわかった。居所がわかんなきゃ追いかけられねぇからな」

……それはないんじゃないか? 上階から飛び降りてすぐ犯人を目視し、着地の反動無く動き出せる身体能力なら、どうにでもなるのでは。いや、言わないが。

彼と別れた後、思う。彼は勇気と言ったが、俺のは勇気じゃない。本当に勇気があるなら犯人を追いかけてるはずだ。だが俺が追いかけても追いつかない、そう判断し、最低限できることをと思い叫んだまでだ。

何かしなければ気が済まなかっただけだ。

俺は元いた本屋へと戻る。こういうのに巻き込まれるのはもうこりごりだ。今日の残りは優雅に本巡りをして過ごそう。

その後、俺は悪魔がらみの事件に巻き込まれ、件の彼、利田と共に事件を解決することになる。……俺はショッピングモールに呪われているのか。

tarot
ace of wands / the emperor / the world

誘惑

2024/10/16
愛まほ・悪たし

大柄な体躯、黒い体、赤い角、悪魔の翼。横に流した前髪を指でなぞり、男は笑う。

「キミの願いを一つだけ叶えてあげるよ」

窓の前に現れた悪魔から、テレビに目を戻す。俺は短く言い放つ。

「必要無い」

悪魔の顔がテレビをさえぎる。

「そんなこと言ってー。人間なんだから、願いの一つくらいあるでしょ」

「あったとして君には言わない」

「警戒されてるなー」へらへらと笑う。

悪魔の瞳が視線に絡む。つい凝視する。

「なるほど、それがキミの願いなんだね」

瞬きした瞬間、目の前に別人が現れる。

よれたジャージズボン、ボロボロのパーカー、黒が混じる金髪。にやついたつり目。

「伊方」つい口をつく。

伊方はぶっきらぼうにあぐらをかき、猫背をさらに曲げて、俺と顔を突き合わせる。

「サクマ」甘い猫なで声。「オレはずっとオマエの側にいるし、二度といなくならない。オマエの願い、叶えさせてくれよ」

息を呑む。呑んだ息を力を込めて吐き出す。吸って、言葉を吐く。

「断る」

「えーっ」表情が崩れる。

立ち上がり風呂場に向かう俺に、悪魔がついてくる。子どものように跳ね回る足取りは伊方に似ても似つかない。

「なんでー、オレの変身すごいでしょー?」

「所詮偽物だ」

「じゃあ本物蘇らせてあげる!」

「いい。その選択は二度とごめんだ」

悪魔は腕を組んでうなる。君がどれだけ心を読もうと、願いを知ろうと、俺が「選ばない」理由を理解できないだろう。

tarot
ace of wands / the devil Rx. / 2 of swords

生者たちの答え

2024/10/17
とな天・愛まほ

なぜ遺された者は生きるべきか。死者を悲しませるなとか、命は尊いとか、きれい事はいらない。オレは答えが知りたいんだ。

「答えはないよ」

少年が静かに言う。隣に座る少年は、暗い褐色肌に黒髪という、この田舎に似合わない見た目をしていた。

一ヶ月前、実家の前でボーッとしてたオレに、この九十という少年が声をかけてきた。それから何度も来ている。正直うぜぇ。

「なら死ねってことかよ」低く返す。

「伊方さんは死にたいの?」

口ごもる。視線を落とす。

「きっとどっちもだよね」

「わかったような口利くな」

「そうだね。でも俺、わかっちゃうから」

九十は曲げた脚に両腕を乗せ、体重をかける。ここではない遠くを見つめる。

「俺らは最初から生きたいし死にたいんだ。大事な人に遺されたならなおさら。そのどうしようもない矛盾に答えを出すために生きていく。死者を悲しませないことも、命は尊いことも答え。皆違う答えを見つけて、自分の答えのために生きていくんだ」

膝を倒し、オレへと向きなおる。困ったような眉と細めた目で笑う。

「俺はあなたの答えを見つける助けになれたらうれしい」

九十は「また来ます」と言って帰った。

九十の話はよくわからねぇ。大事な所をずっと遠回りしているような言葉ばかりだ。また来ると思うとむしゃくしゃする。同時に、九十の言葉を待っている自分にも薄々気がついていた。

アイツの言葉にすがることが、今できる精一杯の、オレの生き方だった。

tarot
the star / page of swords Rx. / king of cups

一手違えば

2024/10/18
とな天・愛まほ

こいつさえいなければ。そう思ったとき、手を出すか、出さないか。たった一手の違いで人生が大きく変わる。君と俺のように。

黒井弥吉という青年がいる。俺より背が高く、金髪にピアスという風貌に反し、物腰は穏やかで真面目。黒井君は魔力過敏症で、魔力の中にいると体調が悪くなる。現状正式な病ではない。

実家へ帰省した際、道に倒れていた黒井君を介抱したのが出会いだった。

俺たちは意気投合した。生活の苦労あるあるについて話したり、魔法を避けるコツや便利グッズの情報を共有したりした。

君とは物事の最初に注目する点が同じだった。君が話すと思考を先読みされたように感じる。伊方とはまた違う視点で価値観を分かち合える存在だった。あの日までは。

ある朝テレビニュースで知る、壊滅した故郷の姿。町民全員が「天使」になった。天使は未知の魔法現象だ。人間が天使になるのはすなわち死を意味する。

町を壊滅させた一人が黒井君だという。彼への電話は繋がらない。

君は後に、この時代で最も非道な大悪党として名を知られることになる。

一手違えば、俺は君だった。

生活のハンデ。孤独。自己否認。停滞した人生への恐怖。社会への憎悪。すべての過ちを象徴する一人。

最後の一手。これで世界を変えなければいけない。そう思う瞬間が俺らにはある。君と俺を分かつのは、それができたかどうかでしかない。

俺たちが交わることはもう無い。だから世界の端からこの言葉を贈る。

それでも俺は君の友達だ。

tarot
knight of pentacles Rx. / 3 of cups / queen of pentacles

人生ゲーム

2024/10/19
とな天・愛まほ・悪たし

セピア色の人生ゲームを広げる。「落ち着いた雰囲気」と俺が、「地味だな」と佐久真さんが、「ここまで楽しくなさそうな人生ゲームは初めてだ」と安藤さん言う。

ひょんなことから出会った俺たちは、ひょんなことから手に入れた人生ゲームを遊ぶことになった。人生ゲームは和室によくなじんでいる。

「じゃあ俺からやります」

思いっきりルーレットを回す。空回りして出目は三。一つずつマスを移動する。

「ええと、謎の組織に誘拐され死にかける、一億円失う……」

肩を落とす俺は安藤さんに慰められる。

「まだ序盤だ、生きてりゃ割となんかなる」

「次は俺だな」

ルーレットは勢いよく回って、五。コマでマスを順に小突き、止まる。

「一家心中で自分だけ生き残る。家族コマを全て失う。一回休み」

「人生の序盤に置くマスじゃねぇ」

「あの、生きてればなんとかなるよ!」

「最後は俺か。嫌な予感しかしない」

指ではじくように回して十。目で道を追い、コマを置く。

「大事な人が死ぬ。十回休みか、コマを一つ犠牲にして大事な人を蘇らせるか選ぶ」

「二者択一がすぎるよ」

「その、生きてればこの先なんとかなるぞ」

その後も俺たちはなんとも言いがたいマスに止まり、最後まで壮絶な人生を送った。三人とも終始渋い顔をしっぱなし。

「やるだけで疲れる人生ゲームだった」

「でもなんか、他人事って感じがしなかったな。それが余計しんどいんだけど……」

「俺もだ。それぞれ苦労してるんだな」

tarot
queen of pentacles / the moon Rx. / ace of cups Rx.


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