とーごイ洋志二次創作短編小説『終末の午後』

2023年3月12日

目次
  1. 注意書き
  2. 本編

注意書き

本作品は2021年6月8日にPixivで公開した作品をサイト掲載用に一部編集したものです。内容はPixiv版と同じです。
Pixiv
とーごイ洋志二次創作短編小説『終末の午後』

本編

青い空の中ぽつんと一つ赤い星。あれは彗星といって、あと数時間で地球に落下する。

空を見上げていたわたしの頬を白い布が撫でる。空よりも私を構いなさいと言いたげな真っ白のTシャツ。昨日こぼした麺汁の染みは跡形もなく落ちている。他の洗濯物と束になって、ベランダに詰め寄って、そよ風に乗って揺れている。

洗濯物はすっかり全て乾いていた。全身を覆うべたついた汗を、この子らで拭い尽くせたらどんなにいいだろうと考えながら、洗濯物を竿から外していく。腕を伸ばし、ハンガーの穴に通す。そのまま持ち上げて、高度を下げながら、足下の洗濯かごに滑り落とす。この工程を十五回繰り返して洗濯物を取り込む。最近は持ち上げすぎて宙へ放り投げることも少なくなった。この方法を思いついた日、ハイタッチでマスターをベランダから突き落としそうになったことを、洗濯物を取り込む度に申し訳なく思う。

マンションの七階からは色々なものが見える。大通りを行き交う車、時刻表通り来る電車。陽炎の中揺らめく家々には、ここと同じように、洗濯物がぶら下がっている。きっと上の階も、下の階も、洗濯物を干している。テレビゲームのBGMに混じって子ども達の笑い声が、それに溶け合うように掃除機を掛ける音が聞こえる。

まるで、今日が世界の終末だと誰も知らないみたいだ。

洗濯かごを持ってリビングに足を踏み入れると、冷風が服と肌の間を縫って流れていく。風に混じって、甘い香りが鼻をつついた。

白いダイニングテーブルの上で、筋肉質な腕が金縁と花柄で彩られた小皿を並べている。ああ、もう三時になるのか、と気づく。

「グッドタイミングだよ洋志。ちょうど今、おやつの用意が終わったんだ」

黒縁のべっ甲眼鏡の奥で、揃い切られた眉とビー玉の様な黒目が笑う。微笑んだ口元に薄くほうれい線が伸びている。細身かつ若作りの顔立ちから二十歳にも間違われるが、マスターはもう四十半ばである。

「それが今日のおやつですか?」

テーブルに置かれた大皿に、色とりどりのシフォンケーキが整列している。それを小皿や金色のフォーク、アイスティーやポットが取り囲んでいた。

「大通りに新しいケーキ屋さんができてね、試食がおいしかったから買ってみたんだ。ホットティーを合わせようかとも思ったんだけど、今日は暑いから」

マスターがポットを軽く持ち上げてみせる。昨日の夜から、冷蔵庫の中でじっくり茶葉を抽出した自家製水出し紅茶。渇いた喉が音を立ててつばを飲み込む。

「アイスティーが温くならないうちに食べようか。洗濯物は食べ終わってからたたもう」

反対する理由は何もなかった。二人揃って自分の席に着く。

いただきます、と手を合わせてから、アイスティーをわしづかみして飲み干す。胃に流れ着いた冷たさが全身を巡り、ほてった体を内側から冷やしてくれる。エアコンで冷え切った室内で飲む、キンキンに冷えたアイスティーは格別においしい。思わず息を漏らす。

「そんなに暑かったのかい」

マスターがアイスティーを注ぎ足してくれる。

「今年は特にって感じです。でも、おかげで洗濯物はすっかり乾いてました」

シフォンケーキを両手で軽く挟み口へ運ぶ。噛むと溶けるように崩れていく柔らかい生地、とろんとした甘みと柑橘類の香りが鼻腔をくすぐる。

ベランダへ続く大きな窓の前にわたしたちの食卓はある。ダイニングテーブルが窓一杯の光を浴びて、ところどころに残る、わたしが落とした食器の傷跡や食べ物のシミがキラキラ輝く。

いつも決まって、わたしが窓と向かい合って座り、マスターは窓を避けてわたしの右斜め前に座る。わたしが食べ始めたのを見てから、マスターは自分の小皿にケーキを乗せ、フォークで切り分ける。小皿のそばに文庫本が置いてあった。

「今日も難しそうな本を読んでいますね」
「洋志はこういう本を読まないね」

無地の灰色の表紙に、米粒ぐらいの文字で「終活のための哲学」と書いてある。似たような本がマスターの部屋を埋め尽くすように積み上がっていて、そのどれもがすでに読み終わった本だ。部屋は定期的に掃除されるので、意外とほこりくさくない。

「わたし、本はもっと楽しそうにするべきだと思います。表紙にもっと花とか絵とか載せて、色も赤や黄色を使って」
「じゃあそういうブックカバーを作ろうか。それを被せたら洋志はこの本を読むかい?」
「……読まないと思います。読んでも理解できないので」

「少し意地悪く言ってしまったね。無理に読む必要は無いよ、自分が興味を引かれるものを読めばいい。そのためにたくさん本があるのだから。もし将来読むことがあるなら、わからないところをぼくが教えてあげるよ」

そう言いながらマスターは小皿のケーキを切り分ける。さっき切り分けていたものとは別の種類だ。

「そうだ、伝えるべきことがあってね」
「なんでしょう」
「洋志。愛しているよ」
「そうですか、ありがとうございます」

言ってから、おかしい返答をしたことに気がつく。人間は愛を告げられたら、恋人になるかならないか返事をするものではないだろうか。

「愛しているというのは、恋人関係になりたいということでしょうか」
「そういうつもりは無いよ」
「発言の意図がわかりません。愛の告白は恋人関係の承諾確認であると学びました」
「いや、そうとも限らない。ぼくは愛情と恋人になりたい欲求に相関関係を持たない人間なんだ。ぼくは君を愛している、その気持ちだけで全て完結している。

この告白の目的は把握だ。君がぼくの劣情を知らないまま共に生活するのは、フェアじゃない。君はUTAU音源でぼくはそのマスター、ぼくは君を操作できる立場で、言ってしまえば有利な立場にある。自分の気持ちを隠して今以上に優位であろうとするのは不誠実だと考えたんだ」

「気遣いには感謝しますが、突然告白するのは止めた方がいいですよ」
「そうかい? じゃあ次からは予告しよう」

そういう問題ではないでしょう、と呆れてしまう。マスターは思慮深いが、時折わたしより非人間的な言動が見られる。日常会話の中無造作に投げられた告白や、自分の気持ちを劣情と言いながら思い人の公平性を守ろうとするアンバランスさが、なんだかんだこの人には似合っていると思う。

「結論として、告白の返事はしなくてよいのですね」
「してもらってもいいけれどね。同じ気持ちなら嬉しいし、こっぴどく振ってもらっても構わないし」
「後者は禍根が残りますよ。……いえ、返事しようにもできないのです。わたしは人間の言う『愛』について、まだ理解できていないので」
「……理解できないというのは、否定的であるということかな」
「というより、何が愛であるのかわからない、というか。何を基準に愛している状態と判断できるのか知らないので、そもそもあなたを愛しているか、いないかもわからないのです」
「なるほど、それは困ったね」

マスターは顎を軽く撫でる。これは、今日の「議題」が決まった合図だ。

「よし。じゃあ、今日は洋志にとっての『愛』がなんであるかについて考えてみよう」

マスターは仕切るように手を叩く。すっかり見慣れた光景に、わたしは自然と笑ってしまう。毎週土曜に行われるこのおやつの時間は、わたしとマスター、二人きりの授業の時間でもあるのだ。

「よろしくお願いします、先生」
「では洋志君、教科書の七千百三十ページを開きたまえ」
「めっちゃ分厚い教科書ですね?!」

と言いながら、空の教科書を開くフリをする。横目に見た窓の外で、赤い星が七つに増えていた。

フォークを指示棒代わりに掲げながら、マスターは語る。

「古来人類各々が愛について説いてきた。『愛とは大きな愛をもって小さなことをすること』とはマザーテレサ、アレクサンドロス大王は、『真の愛にハッピーエンドはない。なぜなら真の愛に終わりはないから』と言った。『愛は盲目である』、『幸せでなくても愛さえあれば生きていける』、色んな愛についての言葉が残されている」

「皆さん違うことをおっしゃっていますね」

「人によって愛は違うものなんだ。リーの恋愛色彩理論を例にすると、ゲームのような恋愛をしたい人もいれば、協力しあう恋愛や、相手の独占を望む人もいる。三角形理論なんかも面白いね。……理論は覚えなくてもいいよ」

呆け顔のわたしにマスターがフォローを入れる。

「さて、人によって違う愛だけど、ぼくは傾向があると思っていてね。

どんな人も、その愛や愛している状態が、『続いてほしい』と思っているんだ」

ぼくを例にすると、と続けるマスター。

「ぼくにとって愛とは、日常だ。
例えば……。洋志がぼくの考えた方法を元に、一つ一つ、破かないように洗濯物を取り込む。お皿を並べながら垣間見ていると、ふとこちらに気がついて、小さく手を振る。窓越しに、口の形を変えているのがわかって、でも声が聞こえない。聞こえないけど、何か楽しげなのは伝わってくる。それが毎週土曜決まって起きることがたまらなく嬉しい。
あるいは仕事から帰ってきて、今日の晩ご飯をうどんにしたら洋志は喜ぶだろうか、と考えながら玄関を開ける。ただいまと言うか言わないかというときに、『素敵な歌を見つけましたよマスター!』……なんて言いながら、子犬みたいに君が駆け寄ってくる。それが、『今日はうどんがいいです!』でも、『なんとわたし、お風呂が沸かせましたよ!』でもいいのだけど、玄関を開けたら必ず、やけに誇らしげで可愛らしい君が出迎えてくれる。ぼくに一言を言うためにソワソワしながら待っていた君が。そういう瞬間、君とぼくは生活していて、それはこれから先もずっと続くだろうと情熱的に確信する。
ぼくの使命は、この日常がこの日常のままあるよう守ることだと思い至る。これがぼくにとっての愛だ」

……どうしたんだい?とマスターが笑う。ほてった顔を見せたくなくて、少し俯く。

「どうしてそうも、軽々しく熱弁するんです……」
「軽々しくなんてとんでもない。ぼくはいつだって、君のことを真剣に愛してる」
「それを素面で言ってしまうとこが恐いんですよ」

マスターは、わたしを辱めようとか、喜ばせようとかして言っているのではない。ただ普段から真剣に考察していることを、惜しげも無くさらけ出しているだけなのだ。わたしは熱っぽい頭を冷やすべくアイスティーを飲む。思っていたより冷めなかった。

「まさか愛の告白をするために、つらつらと語っていただいたわけじゃあないでしょうね」
「ああ、そうそう。つまり言い換えれば、自分が続いてほしいと思っていること、それが洋志が愛しているものなんじゃないかな?」
「わたしが、続いてほしいと思っていること……」

わたしが続いてほしいと思っていること、と反復する。アイスティーの冷たさが今になって頭に染み渡る。

朱色のプラスチック・コップの表面には、さっきつかんだ手の痕を囲うように、水滴がたくさん付いていた。撫でると水滴が潰れて、コースターに流れ落ちる。この現象は中の水が漏れ出しているわけじゃないよ、と言われたときは驚いた。マスターはいつも新しいことを教えてくれる。そのたびにワクワクする。

「わたしは『楽しいこと』がずっと続いてほしいです」

答えはすぐに出た。

「わたしがここに現れた日から、今日までを、思い返してみました。
最初に続いてほしいと思ったのは、歌です。歌っている間、心の中で、これをするために生まれてきたんだ!とずっと叫んでます。声を出す瞬間、お腹に力が入る瞬間、身震いして、こんな楽しい時間を過ごせるわたしは世界一幸福だと錯覚する。でもすぐ終わってしまう。平均四分間の至福を、もう一度だけでも味わいたくて、だからすぐ新しい歌を歌う。どの歌も同じものはなくて、そのどれもが新鮮な体験で、何度でも楽しいままなんです。
それと……。わたしは、マスターと過ごす日常も楽しいです。
マスターと、次の歌をどう表現しようかって相談することも、わたしが歯を磨いて、次どうぞーって声を掛けることも、洗濯物を取り込むことも、毎週土曜のおやつの時間も……。同じなんです、何度も何度もしたことで、全て同じ行為で、それぞれ違う記憶として思い出せるんです。今日飲んだアイスティーと、昨日飲んだアイスティーの味は違う。こんな味だったねと二人で思い出を共有して、明日はどんな味だろうと思う。それが毎日続いてくれることが幸せで、楽しいんです」

きっと今、熱弁するあなたと同じ顔をしている。

マスターは納得気に、目を細めて、柔らかい声で言う。

「そうか。それが君の愛なんだね」
「ええ、これがわたしの愛です」

そっか。わたしは続けたかったのか、あなたとの日常を。その結論は気持ちいいぐらい自分の中に収まって、思わず顔を上げる。

窓の外に、絵の具で塗りたくったような、不自然なくらい赤一色の空が浮かんでいる。五時のチャイムはまだ鳴っていない。数え切れないほどの彗星が空に散らばって、大きい星も小さい星も、箒のような尾をたなびかせている。窓一杯の光を浴びて赤いダイニングテーブルは輝く。小皿も、フォークも、シフォンケーキも――赤くてテーブルと境がわからない。多分空は世界中全てを赤く染めている。彗星達が先導して、山ぐらい大きい隕石が落ちてくるのだと、先週のニュースが生真面目に伝えていた。

わたしは急に、何もかも全て恐ろしく思えた。

「シフォンケーキはおいしかった?」
「え。ああ、おいしかったです。裏路地のケーキ屋さんのものとはまた違った柔らかさですね。あそこのは弾力があって、これは砂糖菓子みたいに溶けちゃいます」
「それはよかった。今度は別のケーキを買ってこよう。結構種類があったんだよ、ぼくが好きなロールケーキもあってね……」

どんなケーキがあったかを事細かに説明するその横顔は、テーブルと同じくらい赤く鮮やいでいた。

わたしたちは、この後揃ってごちそうさまと言うだろう。洗濯物をたたんで、夕食を食べる。お風呂に入る、歯を磨く、寝る、平日は仕事がある。来週になったらロールケーキを買ってきて、今日のように授業をしながら、このロールケーキもおいしいですねぇと笑い合うだろう。

隣室から今日一大きいこどもの笑い声が聞こえる。さっきの声は石井さんちからしてたんだ。もしかしてゲームクリアしたのかな、明日会ったらどんなゲームだったか話してくれるかも。掃除機を掛ける音がする、同じ人だろうか、違う家からだろうか。誰も終末を知らないんじゃないか。

「世界は滅亡するのでしょうか」

疑心は期待混じりに呟く。

「しないさ」

確信に満ちた声が言う。

「君と観た映画のように、スーパーヒーローが、誰も思いつかなかった素晴らしい解決策で全て解決する。ぼくたちはずっとそれを待っていて、ひたすらに待って、待って、待って、待って、待って、そうして解決したことに気がつかないまま朝食を食べ始めるんだ」

マスターが教えてくれる全てが真実であるように感じられた。でなければ崩れ落ちて泣きわめいてしまいそうだった。

「……先ほどの話の続きですが。

愛が続いてほしいと思うことならば。決定的に、反証の余地もないほどに、その愛が続かないことがわかってしまったら……。人は、どうなるのでしょうか」

マスターの眉が少しだけ鋭くなる。

「それも人による。気が狂って自分の手で愛を壊す者も、愛のない世界に生きる価値は無いと自死する者もいる」

そのどちらの人物像も、わたしの形がよく当てはまった。

「あなたはそのどちらかですか」と恐る恐る尋ねる。どちらかであってほしいような気もした。

「どちらでもない」

淡い期待を振りほどくように、マスターは首を振る。

「ぼくの中で、愛が終わることは永遠に無いんだ。ぼくがそうだと思えば、ぼくの中ではずっとそうなんだよ。
愛は続いてほしいと思うことだ。本当に、ただひたすらに、自分の命を捧げても、それだけは続いてほしいと思うことだ。終わるなんて考えられない、いや、考えちゃいけないんだよ。気が狂うから。恐怖に耐えきれなくなって、自ら愛を壊すという、最も望みからかけ離れた行為を選ぶから。
ぼくは世界が終わるまでずっと好きな人と共に過ごしていたい。どうせ何をしても死ぬのなら、自分を欺してでも、日常のままでいたい。最後の一瞬までは、自分の最愛の望みを叶えたいから」

赤色の光がマスターの顔に影を作り、表情が捉えられない。いつものように笑っていてほしいと思う。

「洋志はどうだい?」

「わたしは……」

わたしは今どんな選択もとれる。こんな気持ちになるぐらいなら、愛など教えてくれなきゃよかったと、あなたを責め立てることもできる。あなたがいるから辛い気持ちになるのだと、元凶であるあなたこそ殺せば気が晴れると、暴力を振るうこともできる。いっそ何も感じなければと、死ぬことも、できる。

どれもきっと楽になる。でもどれも、心から望むことじゃない。それをしながら、これをするために生まれてきたんだと思うことはできない。

「……わたしは、続かない愛ならば、せめて、せめて最後の一瞬までは、明日も愛が続くことを願っていたいです。
これが最善とは思いません。もっと有意義な過ごし方があるでしょう。死に際に素晴らしい解決策を思いついて、実は全てを解決する妙案だったかもしれないと、なぜ十分前に思いつかなかったのかと、後悔しながら死ぬかもしれない。でも。
……明日が同じように続く、そう願っている間は、楽しいままでいられるので」

「……そうか」

それを聞いて安心した、とマスターは小さくこぼす。

大皿のシフォンケーキは食べ尽くされていた。あなたと目が合って、二人揃って、祈るように、ごちそうさまでした、と囁く。

「さあ! 食器を片付けよう」、とマスターが仕切る。「わたしがとりこんだ洗濯物が先ですよ!」とふんぞり返ったわたしが鼻を鳴らす。次はたたみ方を考えなきゃなぁ、飲み込み早いのですぐ覚えちゃいますよ、なんて言い合いながら二人して席を立つ。

「そうだ、図鑑。図鑑にしよう」

食器を片付けながらマスターが呟く。

「図鑑?」
「君に薦める本のこと。赤や黄色で、花とか絵があって、新しいことが知れて、何より楽しそうだ。来週土曜、ロールケーキと一緒に買いに行こう。洋志も一緒にね」
「図鑑、わたしでも読めますかね」
「小学生向けのものを買おう。おっと、こども用と馬鹿にしちゃいけない。わかりやすさでこども用の右に出るものはいないんだ。それに――」
「わからないところはマスターが教えてくれる、そうですよね?」

きょとんとしたマスターの顔が、崩れてほころぶ。わたしのしたり顔も釣られて力が抜けていく。部屋に互いの笑い声が響く。彗星落下の衝撃波が、町ごと笑い声を吹き飛ばした。

【終】