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穴迷路

終わりの無い穴を掘っている。
地面は穴だらけ。
岩にあたって終わったものもあれば。
伸びた先で他と繋がったものもある。
あちらを掘ってはこちらを掘って。
あの穴を進んでこの穴を通って。
地上はもうわからないが地図も無い。
ある日、ふと、大きな道に出る。
穴が集まって一つになった空間。
そこからずうっと下へ掘っていく。
底が抜けた。
踏み入れた先は空。
空に落ちて、風を切る。
ようやく迷路の終わりを知る。
着地し、スコップを手にした。
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顔と心が別人の人

自分の顔がわからなくなる。
わたしの顔に見えなくなる。
あるときは絶世の美女。
または史上最低のブス。
心と体が別人だ。
体の外側で考えている自分がいる。
頬をつねって痛むことが救い。
この痛みすら外側に行ったとき。
自分の足が並行でなくなったとき。
外側の心すら私ではなくなる。
心はまだ痛いか。
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色狂い

網膜に焼き付いた色が真善美の幻を生み出している。
この絵の正解はどこ。
筆は止まっては動きを繰り返す。
ミクロばかりをこねくり回す。
森は森という塊であって木の集いではない。
もうどこから手を付けたらいいのか。
眠りましょう。
朝になったらそこには素敵な絵があるから。
明日筆を執らない私に怯えつつ。
一番美しい色に出会う日を夢見て。
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元気、元気

元気な人って思われたいからネガティブなんか生きてて見たことないみたいな顔をしている。
そんなわけないじゃん。
本当に見たくないのは私。
見せるなよ。
違うよ、悪くないよ。
渦巻いた心も知らないような言葉が体から出ていく。
私が驚いているくらいだ。
私のネガティブは八十年発酵してから誰にも食べられずに棺桶の丸焼きになって死にます。
そしたら魂は自由になれますか。
本当に元気になれますか。
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矢の心理学

心は光速で飛ぶ矢である。
私たちは観測を模索し続ける。
光速も捉えようかという機械。
始点終点から経路を計算する理論。
神の物語で解剖する宗教。
こうあればいいなという期待。
機械、理論、宗教、期待。
これらもすべて矢である。
私たちが矢の本当の姿を知ることはない。
それでも私たちは矢を見ようとする。
その矢が誰かに刺さらないために。
放つ矢が自己の背中をえぐる前に。
たとえ矢を追う矢であっても。
この詩もまた矢であっても。
心を知ることを止めない。
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幽霊感情

記憶に刺されている。
臨場的感情。
それは実体ではない。
幽霊に取り憑かれている。
ここにいる私の感情を見なさい。
今、誰も傷つけていない。
今、誰も傷つけてきてはいない。
傷を取り戻そうなんて思わないで。
刺されたときは痛い。
刺された記憶は痛い。
古傷は今も痛い。
でも、今は刺されていない。
生きていかなきゃいけない。
誰を刺しても傷は戻らない。
今ここにいる私が一番安らかでいるために。
幽霊ではなく。
私を見て。
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沈黙の関係

喧嘩でも殴り合いでもないけど居心地が悪い。
それは些細な一言から。
見えない傷への流れ弾。
ただ黙っている。
子どものように責められたら。
でもその先は見えない。
この世に欠点の無い夫婦はいない。
必ず何かが嫌になる。
完璧探しをしていても、運命の人は見つからない。
だから、黙る。
はまらないパズルのピースはいらないけど。
爪が引っかかるくらいはお互い様。
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殺せずにいる

誰かを殺せる人がうらやましい。
私は考えてしまう。
殺し損ねたら。
死にそびれたら。
今日も揺れている。
衝動と理性の間。
私は強い人。
そして、弱い人。
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タロットは何も言わない

タロットよりもAIの方が現実的だ。
だけど私はタロットを選ぶ。
海だけが知っている。
私たちは一つの海だ。
一つ釣り針を落とす。
竿に力はかからなかった。
でも引き上げればかかっている。
それを釣り上げたとき。
私たちは本当に自分を慰められる。
まるで母の形見。
または父の遺骨。
抱いて涙を一筋流す。
傷を知る。
私を知る。
タロットは答えを言わない。
だが、そこにある。
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隠されていた日記

人の日記を読んではいけない。
ただし死人を除く。
だって読みたかった。
あなたの本心。
でもあなたは日記でも優しい人。
ちょっとぼけすぎなくらい。
言ってくれればいいのにって愛の言葉。
でも十分なくらいもらったね。
私はわかっていなかったね。
あなたは死んでもあなただった。
私は死んでも私だろうか。