『愛とはあなたを破壊する魔法』制作記録九
目次
進捗
曲を三曲作りました。これはその内の一曲です。
楽曲制作工程について
楽曲制作工程を備忘録も兼ねて書き記します。
冒頭で紹介した楽曲を制作した工程についてです。
前提
『愛とはあなたを破壊する魔法』の楽曲は、以下の様な仕様で制作しています。
- アンビエントとオーケストラの要素を含むピアノ曲
- 一曲二~三分
- 一曲の中で曲の雰囲気が同じになるように作る。金太郎飴のような曲が理想(OP曲のみ例外)
一つ目の仕様はゲーム全体で曲の雰囲気を統一するために設定しました。
場面に合わせた楽曲を作るため、多少楽曲ごとの雰囲気はずれます。ただあまりにも雰囲気が違いすぎると違和感が生まれてしまうため、できる限り統一します。
二つ目の仕様は、配布されているゲーム楽曲素材や所持しているゲームサウンドトラックの楽曲が大抵この長さだったため、それに倣って設定しました。
三つ目の仕様は、ゲーム素材に適した楽曲を作るために設定しました。
例えば、前半が悲しい曲調、後半が楽しい曲調の曲があったとします。しかしノベルゲームにおいて、必ずしも悲しい場面で悲しい曲調の部分が流れるとは限りません。プレイヤーによって文章を読むスピードが違うためです。
そのためゲームにおいては、一場面につき雰囲気を統一した一曲をあてがうのが無難です(この問題点を解消したインタラクティブ・ミュージックという概念もありますが、割愛します)。
構想
私の楽曲制作工程は、大まかに「構想」と「打ち込み」に分けられます。
構想はさらに「楽曲の感情を決める」「構想を決める」「作詞する」の三つの工程に分けられます。
楽曲の感情を決める
楽曲に限らず多くの創作作品において、受取手が感じる感情を考えることは重要です。
ここをはっきり決めないと作品の方向性が取っ散らかります。また、ゲーム楽曲においては場面に合わない楽曲しか生み出せない状況に陥ります。
楽曲の感情を決めるためにはまず、楽曲を使用する場面のあらすじ・シナリオを読み返します。
そしてその場面から感じた印象を一言で言い表します。今回は「寂しさが残る朝」としました。
これは楽曲のタイトルになります。
次にタイトルから連想したキーワードを書き出します。三、四つあれば十分です。
今回は以下のワードを書き出しました。
- 落ち着いた
- 寂しさ
- 爽やか
キーワードが思いつかないときは、ゲーム楽曲素材配布サイトのカテゴリーを参考にします。
構成を決める
楽曲の感情を決めた後は、楽曲の構成を決めます。
まず先ほど書き出したキーワードに近いものを中心に楽曲を聴き漁ります。
今回は以下の様な曲を主に聴きました。
- ポケモンダイヤモンド・パールサウンドトラック
- 劇場版科捜研の女サウンドトラック
- 千と千尋の神隠しサウンドトラック
- 甘茶の音楽工房配布楽曲
- ローファイ系楽曲
- となりのクラスの知らないあの子は天使になったんだサウンドトラック
- すでに完成した『愛とはあなたを破壊する魔法』使用楽曲
楽曲を聴くときは、「先ほど決めた感情を表現するためにはどのような技術が使えるか」という観点で聴きます。メロディパターンやリズムパターン、拍子、楽器構成に注目することが多いです。
参考楽曲を聴きながら構成を考えます。今回は以下のような要素を主に取り入れました。
- ローファイ系ドラムを使用する。一つ前の曲が夜をテーマにしており、夜の落ち着きを表現するためドラムを抜いた。本楽曲では逆にリズムの揺れたドラムを使用することで、落ち着きのある爽やかな空気感を演出する。またしっかりしたドラムではなく、少しよれたローファイ系の音を使用することで、朝の緩い空気感も表現する。
- 四拍子にする。OPと一つ前の曲が三拍子で、優雅さが表現されていた。三拍子にすると爽やかさを優雅さが消してしまうので四拍子にする。
- イントロ→Aメロ→間奏→Aメロ→Bメロ→Aメロという構成にする。サビを作らないことで落ち着きが表現できる。
- 使用する楽器は、ピアノ・ストリングス。リフを柔らかめのシンセサイザーで作りたい。ピアノは柔らかいピアノとかなり柔らかいピアノの二種類使用する。
- Bメロ以外はピアノが主旋律を担当し、Bメロはストリングスが主旋律を担当する。打撃系の音から持続系の音にメロディが移ることで、楽曲に飽きが来ないようにする。またBメロを持続系のメロディアスなメロディにすることで、語らうような寂しさを表現する。AメロとBメロで雰囲気が変わりすぎないよう注意する。
作詞する
ここでいう作詞とは、主旋律を作曲することを意味します。
私はインスト曲の場合でも、メロディに歌詞を付けて作曲するようにしています。歌詞無しで作曲するよりもやりやすいですし、楽曲にあった歌詞を考えることで、雰囲気も作り出しやすくなります。
今回は以下のように作詞しました。
Aメロ
昨日流した涙が
錆びて残る朝
雨の匂いが残る
心湿る朝
Bメロ
咲いた咲いた
花は枯れる
A(最後)
昨日流した涙が
錆びて残る朝
明日こぼした涙を
君に救ってほしい
最終的に歌詞は楽曲として聴かれないので、歌ものより完成度が低くても大丈夫です。
言葉の字数を意識していれば、当てはめる言葉は最悪なんでもいいです。
作詞と同時に作曲もします。
作詞から打ち込みまで時間が空く場合は、録音アプリなどでメロディを記録しておきます。逆に言えば、作詞からすぐ打ち込みに移る場合は頭の中に記憶したまま作業します。
打ち込み
構成を決めたら、DAWを使って構成通りに楽曲を打ち込んでいきます。
構成をしっかり決めていると、この工程は早くて一、二時間で終えられます(もちろん楽曲ジャンルなどにもよります)。
ただし実際に打ち込んで見ないと分からないこともあります。
例えば当初リフに当たるメロディはシンセサイザーを使用するつもりでした。しかし柔らかさを表現しにくかったため、リバーブを深くかけた木管に変更しました。
曲の完成度を上げるために臨機応変に打ち込んでいきます。
この工程で意識するのは、ベロシティとボリュームです。
大抵の楽器は演奏するときに抑揚が付きます。この抑揚をベロシティ(楽器によってはボリューム)で付けることで、メロディの自然さとクオリティが上がります。
乱雑に変化させるのではなく、意図を持って値を設定するのが重要です。
私はベロシティを設定するとき、人間の声で歌ったらどう表現するだろうと考えるようにしています。前工程で作詞した歌詞を参考に、「ここは人間なら弱く歌うだろう」「ここは強く歌うだろう」と想像しながら作業すると上手くいきます。
合成音声の調声の経験がある方は、調声と同じ考え方が使えると思います。
完成
微調整やMIXなどをして完成です。制作時間は二時間(構成の時間を含まない)でした。
なおMIXについては、打ち込みの工程である程度各パートの音量・位置関係を操作しているので、あまりやることはありません(歌ものの場合はまた事情が変わります)。
後書き
五月はゲーム制作以外の作業に気を取られてあまり進捗がありませんでした。六月は目一杯ゲーム制作に当てられそうなので頑張ります。