小説一覧
とな天短編小説『そこに優しさがあるから』
2025年5月10日

概要 本編 老夫婦が振り返る。オレと目線が合わず、大きく上を向く。戸惑っている。二人とも春服を着込み、リュックを背負い、ハットを被っている。 オレは焼けた肌にTシャツ、真っ赤なズボン。ごつい、黒い、でかいリュック、背負えるだけの体格。眉間と鋭い目を広げて、明るい声で笑いかけた。 […]
愛まほ短編小説『桜海に夜』
2025年4月12日

概要 本編 桜が光っている。花は白くほのかに光り、寄り集まった大きな光が夜空を覆い隠している。光の当たった幹がずっと遠くまで並んでいるのが見えた。 男が桜を見上げていた。ざっくりと切った前髪の下、黒い瞳の中に、桜の光が映っている。老け顔とからかわれたしかめっ面も緩み、むしろ幼く見 […]
愛まほ短編小説『桜海に朝』
2025年4月12日

概要 本編 薄暗い夜空の端から明るくなり、朝日が桜を照らす。満開だ。一つ一つは白い花でも、木々が集まるとほのかに桃色が浮かぶ。 男が見上げる。白い髪、薄い肌、色の抜けたパーカー。花の中で黄金の瞳が光っている。黒いメッシュと幹だけが濃い。重い前髪の下で瞬く。口が少し緩んでいた。 風 […]
悪たし短編小説『いいよね』
2025年3月8日

概要 本編 抱えていたチョコの袋や箱を、バサバサとゴミ箱へ落とす。メッセージカードの束をちぎって捨てる。「黒永くんへ」「愛一へ」の部分は細かくちぎる。元の持ち主がわかると、なんでか返されたり、怒られたりする。だから学校に物を捨てるときは気をつけてる。 先生が使う方の玄関から校舎裏 […]
悪たし短編小説『生きていていいと言うために』
2025年2月8日

概要 本編 襟ごと首が持ち上げられ、頭が後ろへ倒れる。老人を見上げる。彼は白い眉でまぶたを潰し、歯を食いしばる。怒鳴り声が脳に響く。 「美貴を殺したのはあんたか?!」 老人は俺を揺らし、「答えろ」と怒鳴る。 俺たちの間をおばさんが割って入った。おばさんは老人を引き剥がす。 「お父 […]
愛まほ短編小説『師友』
2025年1月11日
概要 本編 死を見送った者の顔だった。眠そうな目にはくまが沈んでいて、私を見て柔らかく目尻を引いた。口は薄く笑っているのに、眉は少し困っている。黒いくせっ毛はいつもよりまとまりがない。 「おはようございます、店長」 佐久真旭君の第一声だった。私も「おはよう」と言った。それだけだっ […]
愛まほ短編小説『後悔』
2024年12月14日
概要 本編 魔方陣とは黒インクの編み物です。 ダイニングテーブルを覆い隠す紙には、縁から縁まで幾何学模様が描かれている。真円の中幾重にも編まれた均一な線は、全てわたしが描いたものだ。線は、分岐も含めれば、全て一本で繋がっている。 「美しい魔法だ」 テーブルを挟んで目の前に立つご老 […]
愛まほ短編小説『決意』
2024年11月9日
概要 本編 生きた死体だ。飯と便所以外は寝腐っている。 日ざしが痛くてとっくにカーテンは閉めた。ダンボールとゴミの山に囲まれてオレは倒れ込んでいる。押し入れに頭を突っ込んで薄い敷き布団を枕にする。押し入れが暗いか、もっと暗いかで昼夜を知った。 油の臭いが漂っている。廊下に転がって […]
とな天短編小説『偽善者』
2024年10月12日

概要 本編 黒く小さい手を組み、君は顎を引く。耳の上で切りそろえた黒髪が風に揺れた。長い前髪から伏せた目が覗く。結んだ唇に軽く力を乗せている。 校舎裏の片隅、フェンスの側。そこで君は地に膝を突いていた。眼前には頭ほどの大きさをした土の山がある。君が埋めた墓だ。 君ほど素晴らしい偽 […]
十月毎日小説執筆企画まとめ
2024年10月5日

概要 おごりがい 2024/10/01とな天 店内にいるのは、チャーハンをかき込むサラリーマンや酒をあおる老人。店に入るとき、煙草の匂いがした。店の中央の席を陣取る学生服のおれたちは浮いていた。 「ほら、好きなだけ頼め」利田先輩からメニューを手渡される。 九十とメニューを見る。ザ […]