小説一覧
とな天短編小説『ハーバリウムが終わるまで』
2025年8月9日
概要 本編 明日、世界は滅亡する。そして世界は花になった。 朝起きたら布団に花が生えていた。茎とかも無く直接。見回した部屋にもポツポツと花。時計、机、ドア。そこに生けたみたいに自然と生えてる。 ハーバリウム現象。人類が未来に絶望して、一日が終わらなくなる。世界中に花が生え、やがて […]
とな天短編小説『友食いのカマキリ』
2025年7月12日

概要 本編 親子が朝焼けの影になる。端の見えない湖一面に紅蓮が咲き誇り、黒蝶の大群が朝日を目指す。朝日から伸びる石畳を、坊主頭の大柄な父親と、うねるセミロングの小柄な少年が、手を繋いで歩いていた。父親が肩ごと頭を下げて話しかけると、少年は顔を上げてはつらつと返す。 僕は走り出し、 […]
とな天短編小説『蝶蓮獄』
2025年6月14日

概要 本編 紅蓮が一面に咲き誇る。紅蓮の庭と白い空が水平線で分かたれて、境目から日が昇る。日から遠ざかるほど藍が深まり、藍の中から黒い蝶の群れが飛んでくる。日が翅に映り、黒がきらめきながら明るい方へ舞う。 水に埋め込まれた石畳の道が太陽へ続いている。ボクはその上で立ちすくんでいた […]
とな天短編小説『そこに優しさがあるから』
2025年5月10日

概要 本編 老夫婦が振り返る。オレと目線が合わず、大きく上を向く。戸惑っている。二人とも春服を着込み、リュックを背負い、ハットを被っている。 オレは焼けた肌にTシャツ、真っ赤なズボン。ごつい、黒い、でかいリュック、背負えるだけの体格。眉間と鋭い目を広げて、明るい声で笑いかけた。 […]
愛まほ短編小説『桜海に朝』
2025年4月12日

概要 本編 薄暗い夜空の端から明るくなり、朝日が桜を照らす。満開だ。一つ一つは白い花でも、木々が集まるとほのかに桃色が浮かぶ。 男が見上げる。白い髪、薄い肌、色の抜けたパーカー。花の中で黄金の瞳が光っている。黒いメッシュと幹だけが濃い。重い前髪の下で瞬く。口が少し緩んでいた。 風 […]
愛まほ短編小説『桜海に夜』
2025年4月12日

概要 本編 桜が光っている。花は白くほのかに光り、寄り集まった大きな光が夜空を覆い隠している。光の当たった幹がずっと遠くまで並んでいるのが見えた。 男が桜を見上げていた。ざっくりと切った前髪の下、黒い瞳の中に、桜の光が映っている。老け顔とからかわれたしかめっ面も緩み、むしろ幼く見 […]
悪たし短編小説『いいよね』
2025年3月8日

概要 本編 抱えていたチョコの袋や箱を、バサバサとゴミ箱へ落とす。メッセージカードの束をちぎって捨てる。「黒永くんへ」「愛一へ」の部分は細かくちぎる。元の持ち主がわかると、なんでか返されたり、怒られたりする。だから学校に物を捨てるときは気をつけてる。 先生が使う方の玄関から校舎裏 […]
悪たし短編小説『生きていていいと言うために』
2025年2月8日

概要 本編 襟ごと首が持ち上げられ、頭が後ろへ倒れる。老人を見上げる。彼は白い眉でまぶたを潰し、歯を食いしばる。怒鳴り声が脳に響く。 「美貴を殺したのはあんたか?!」 老人は俺を揺らし、「答えろ」と怒鳴る。 俺たちの間をおばさんが割って入った。おばさんは老人を引き剥がす。 「お父 […]
愛まほ短編小説『師友』
2025年1月11日
概要 本編 死を見送った者の顔だった。眠そうな目にはくまが沈んでいて、私を見て柔らかく目尻を引いた。口は薄く笑っているのに、眉は少し困っている。黒いくせっ毛はいつもよりまとまりがない。 「おはようございます、店長」 佐久真旭君の第一声だった。私も「おはよう」と言った。それだけだっ […]
愛まほ短編小説『後悔』
2024年12月14日
概要 本編 魔方陣とは黒インクの編み物です。 ダイニングテーブルを覆い隠す紙には、縁から縁まで幾何学模様が描かれている。真円の中幾重にも編まれた均一な線は、全てわたしが描いたものだ。線は、分岐も含めれば、全て一本で繋がっている。 「美しい魔法だ」 テーブルを挟んで目の前に立つご老 […]