とな天小ネタ『黒井弥吉の誕生日』
前置き
七月二日は黒井弥吉の誕生日でした。
本編で誕生日を祝ったキャラクターは改めて祝わないつもりでした。
ですが黒井にまつわる誕生日の小ネタを思いついたので、書き残そうと思います。
解説
黒井は毎年大勢から誕生日プレゼントを受け取っています(特に感情操作で好感度を不正に上げ始めた中学生以降)。
ですが貰ったプレゼントに興味はありません。
黒井が大事にしているプレゼントは、九十、利田、令城から貰った物のみです(他世界線の西からのプレゼントを除く)。
九十のプレゼント
本編七月二日の通り、九十からのプレゼントはハンカチです。
今まで黒井が受け取ったプレゼントの中で、一番まっとうに喜んだのがこの九十からのプレゼントです。
九十はプレゼント選びに長い時間をかけました。例えば以下の様なことを考えて選びました。
- 普段使いできるものがよいか、特別なときに使えるものがよいか。
- ポケットに入れられるハンカチがよいか、用途が広い大きめのタオルがよいか。
- どんな柄だと嬉しいか、好きな色か、普段のファッションに合うものか。
プレゼント選びに悩む様子を黒井は感情越しに見ていました。自分のためにここまで考えてくれることは、黒井にとって純粋に嬉しいことでした。
黒井は愛を憎み、愛を信じられませんが、反面愛されることを望んでいます。九十のプレゼントは黒井にとって愛の象徴でした。
後ろ暗い感情や送るきっかけなど無く送られたこと、九十から受け取った唯一の(形ある)プレゼントということも、喜んだ理由です。
このハンカチは、九月一日以降、九十と対立した後も大事に持っています(※ED3以外)。
普段使いはせず、黒井(と令城)しか知らない場所に保管されています。
なお黒井にとっての誤算は、九十から直接プレゼントを受け取れなかったことです。
黒井は能力により、周囲から異様に好かれすぎて、一人で学校から持ち帰れない量のプレゼントを貰うようになりました。そのため周囲の善意と協力により、プレゼントはボランティアのクラスメイトが集め、後でまとめて黒井家に送る仕組みができました(バレンタインやクリスマスも同様)。
自分の過去の行いのせいで、大事な友人から直接プレゼントを受け取れなかったことを、黒井は地味に後悔しています。
利田のプレゼント
利田から黒井へのプレゼントと言えばピアスです。小学六年生のときに贈られました。
利田から見た黒井の誕生日の話はおまけシナリオで書いたので、黒井から見た利田のプレゼントの話をします。
もしかすると、黒井が利田の行為を純粋に嬉しいと思ったのは、これが最初で最後かもしれません。
そのくらい黒井にとって印象的な出来事でした。
黒井は利田に対して、対等であることを望んでいます。
最も信頼する友人の一人でありながら、自分より恵まれ優れている利田に、黒井は並びたいと思っています。
特に、自分にはできない「間違った行為」を平然とできる姿に、憎しみを抱きつつ、憧れていました。
そんな黒井にとって、未成年(しかも小中学生)がピアスを付けることは、最も間違った行為の一つです(最近は普通のことなのかもしれませんが、黒井は厳格すぎる家庭で育ったため、このような価値観を持っています)。
その行為をピアスのプレゼントという形で利田から薦められたことを、黒井は心の底から嬉しく思いました。自分が対等になることを許されたような気がしたからです(黒井はネガティブな人間なので、喜びつつ悲観する部分はあったと思います。でもそれ以上に喜びが勝ちました)。
父を亡くした後だったことも喜んだ理由の一つです。自分で殺したとは言え、父が亡くなったことに、実は相当ショックを受けていました。父を殺しても家からの束縛は続いたことも、精神的に弱った理由です。
そんな中受け取った利田からの純粋な好意は、黒井の心を癒やす出来事でした。
……だからこそ、学校にピアスを付けていくことを咎められたことは、黒井にとって非常に許せないことだったのかもしれません。「お前はしているじゃないか、どうして僕だけ」と思ったのではないでしょうか。
ちなみに利田の誕生日にピアス(と指輪)を渡したのも、対等でありたいという動機からです。
貰ったものは返すという黒井の律儀さが出た行動だと思います。
でもピアス(と指輪)の色に紫と黒と白を選んだのは、ちょっと怖いと思います(紫は利田の瞳の色で利田の好きな色、利田の象徴。黒は黒井の象徴、白は黒井の好きな色)。黄色を選ばなかっただけマシかもしれません。
令城のプレゼント
黒井は昔、令城から盗聴器入りのボールペンをプレゼントされました。具体的に言うと中学二年生のとき、自殺権利を考える会天使事件の後です。
そのときのやりとりを書いた小説を先日公開したので、興味のある方は読んでみてください。
短編集『まいにちを君と共に。』の中にも、同じやりとりを書いた話がありますが、そちらは本編とは違う世界線の話です。
少し小説の補足をします。
最後のセリフ「そこは素直に、僕を信じてって言いなよ」は、黒井の能力の呪文に由来します。
ゲーム本編では呪文無しで能力を使っていた黒井ですが、本来感情操作には呪文が必要です。
黒井の呪文は「僕を信じて」です。一度でもこの呪文を聞いた人間の感情は、操作することができます(とな天アートブック内キャラクターシート参照)。
(本編で令城が「チートすぎ」と言っていた理由の一つでもあります。
他の能力では大抵、能力を使う度に呪文を唱える必要があるからです)
能力の呪文は能力者の口癖でもあります。
つまり黒井は、普段から「僕を信じて」と言い慣れていることになります。
しかし小説では言うことができませんでした。
言えなかった一番の理由は、「僕を信じて」という言葉を信じてないからです。
黒井はまっとうな関係の中に愛を見いだせない人です。正確に言えば、その関係を信じられない人、後ろ向きな関係しか信じられない人です。
「信じて」という前向きな言葉に「信じるよ」と返されても、黒井はその言葉を信じられません。
むしろ「裏切ったら許さない」という後ろ向きな言葉に「そっちこそ」と返された方が、その信頼関係の無さを逆に信じることができるという、矛盾した人間です。
そんな黒井を不器用だと思う令城ですが、自分自身のことも不器用だと思っています。
悪態を吐かず、「裏切らない」と返せない自分もまた、後ろ向きな関係しか信じられない人だと自覚しているからです。
あるいは裏切らないと言っても黒井は信じないだろうという、黒井への理解力からきた返事でもあります。そういう意味では器用な人かもしれません。