とな天小ネタ『黒井と西』
前置き
とな天『おもいで』モードではキャラクタープロフィールが閲覧できます。ED1をクリアすると黒井弥吉のプロフィールが解放されますが、苦手なものの中には西勇人が含まれています。
本編中、黒井と西の絡みはほぼありません。しいて言えば八月五日に黒井が九十を家に送ったとき会ったくらいですが、それでも地の文で一、二行触れたくらいです。
それほど関わりが薄いのになぜ黒井が西に苦手意識を持っているのか、という小ネタについてこの記事では書いていきます。
前提として、私は嫌悪感情と苦手意識をおおむね区別して考えています。キャラクターの感情を表現する際、次のような使い分けをしています。
- 「嫌悪」は相手を積極的に忌避したい・否定したいとき
- 「苦手」は相手を理解できない・付き合い方がわからないとき
黒井から西への感情はこの苦手意識の方だと思って読み進めていただければ幸いです。
解説
黒井が西を苦手な理由はただ一つ、「感情が見えないから」です。
まず黒井は幼少期から感情視認・感情操作の能力を持っています。そのため他者とコミュニケーションを取るとき、最も頼りにする情報は「自分が見えている感情」です。
例えば私たちが他者と話すとき、大抵は相手の表情や声のトーン、仕草などから相手の感情を推測します。
しかし黒井は直に感情を見られます。なので相手の様子から感情を推測する、ということをしませんし、できません。感情を推測する技能が育たなかったためです。
また黒井は、他者の感情が自分の都合の悪いものになったとき、感情を操作することでコミュニケーションを円滑に(悪く言えば自分の思い通りに)進めようとします。
能力には制限があるため話術や交渉術なども交えます。それでもコミュニケーションにおいて、最も頼りにしているのは感情視認・感情操作能力です。
加えて黒井は、感情の有無で生物かどうか判断したり、感情視認で誰がどこにいるのかを判断したりしています。前者については、黒井視点では無機物に感情が見えず、自然と「感情は生物のもの」という価値観が形成されたことが背景にあります。後者については、本編で利田を避けていたのが一例です。
自身の能力に頼りすぎているとも言える黒井ですが、普段はあまり問題になりません。日常生活において能力が使えなくなるということが無いからです。
だからこそ西という人間の存在は、黒井にとって異端でした。
感情が見えないのでどう関わったらいいかわからない、感情が見えないから操作もできないしどう接したらいいかわからない、感情が見えないから人間の形なのに生物かどうかわからない、感情が見えないから避けようとしても位置がわからない……、という風に、わからないづくしの存在です。
冒頭の定義からすると、苦手になる理由の塊みたいな人間というわけです。
ところで、苦手だからこそ嫌いになるのでは、と考えられた方がいらっしゃるかもしれません。私もそう思いますし、嫌いなものと苦手なものが一致している自作キャラクターもいます。
ただこと黒井から西への感情においては、「わからなすぎて嫌いになるより前に混乱する」というのが実情です。もしかしたら黒井は嫌悪感情も抱いていて、西が近くにいないときに悪態をついているかもしれません。「あれ(西)は感情の無い無機物だ、人として尊重する必要は無い」という風に。それでも近寄られた瞬間に嫌悪感情が吹っ飛んで思考回路がぶっ壊されます。
ちなみに西から黒井への印象は「なんかすげぇやつ」ぐらいしかないです。あるいは「九十の友達」。本編六月以降やED3以外の九月以降なら少しだけ敵対意識があるかもしれません。
補足
良好とは言えない関係の黒井と西ですが、世界線が違えば親友になることがあります。
ある世界線では、黒井は西のことを感情視認以外の方法で知ろうとします。その過程で、西が自分を思いやってくれる(ように見える)こと、西は裏表の無い人間であることを知ります。
また西について不確定な情報を一時的に信じるようになります。例えば異世界転生者であることや、転生前も会山町に住んでいたことなどです。黒井にとっては確かめようのないことですが、西はその情報を前提に話をするので、話を理解するために一度前提を信じる必要がありました。
黒井の欠点の一つは、他者や他者の愛を信じられないことです。感情視認によって自分への好意や信頼が見えますが、同時に嫌悪や敵意、自分本位で一方的な恋愛感情なども見えます。正の感情と負の感情が同時にあるとき、黒井は負の感情の方が人間の本性だと認識します(これは主観的な認識で、いわゆる認知の歪みです)。
故に自分は愛されていない・信頼されていないと結論づけてしまいます。
しかし西と関わることで、一時的とはいえ他者を信頼できるようになり、また西に裏表が無いということを認識して、「この人の思いやりなら信じてもいいのかもしれない」と思えるようになります。
加えて黒井は他者の感情を気にしすぎるきらいもあります。幼少期から両親の感情を逆なでしないように顔色をうかがっていたため、他者にも同じように気にしてしまいます。しかし西の感情は見えず、また西自身感情の起伏が落ち着いているため、西となら感情を気にせず、気を置かずにいられると気づきます。
西の方も、黒井から信頼されていると気づき、その信頼に応えられるような自分でいようとします。
西は自分を大事に思ってくれる人を大事にしたい人間です。利害関係というよりは、条件の緩い献身と言えます。
西は自己評価が低めで、他者から好かれていると思っていません。実際友人は数えるほどしかおらず、恋人ができたこともありません。だからこそこんな自分を好きになってくれた人にお礼がしたいと思っています。
この辺りの性質は本編にも表れています。自分の面倒を見てくれる十悦子に恩返しがしたいと言ったり、自分が普通であることに希望を見出している九十に普通であることを約束したりしています。
このように、恩や好意の分を返す性質の西に、黒井が信頼を寄せれば寄せるほど西も信頼を返し、その信頼をまた黒井が信じるという循環が起きるため、二人は親友になり得るというわけです。
小ネタの小ネタ
黒井は虫が苦手ですが、実は西と同じ理由で苦手です。感情は小さい生物になるほど見づらくなります(私たちが米粒に書かれた文字を読みづらいのと同じです)。その中でも虫は特に見づらく、また行動を予測しづらいため、昔から苦手です。かち合うとプロフィールの備考欄のようになります。