推しの誕生日に曲を作る
概要
私の推しの一人、UTAU音源の「とーごイ洋志」が六歳の誕生日を迎えたので、お祝いに曲を作りました。
今回は作った曲の制作経緯や小ネタなどを書こうと思います。
まえがき
- 普段はキャラクター名を全てフルネーム(や名字など、フォーマルな呼称)で呼んでいますが、本記事では親しみを込めて「とごイちゃん」と呼ばせていただきます。
- とごイちゃんについては本家配布サイトをご参照ください。
本記事執筆経緯
普段、自作曲をはじめ自分の創作作品について話すことはあまりありません。
ただ最近別所で一次創作作品の制作経緯やメイキングについて語ることがあり、二次創作作品でも語ってみたら面白いのではないかと思いました。
テーマについて
私は曲や作品を作るとき複数のテーマを設定します。
今回は特に以下の二つのテーマを意識して作りました。
- とごイちゃんの決意
- 聞いた人が(とごイちゃんで)何かを作りたくなる曲
1について
1のテーマは、「自分の中のとごイちゃんとは」ということを考えて設定したものです。
この曲はまずサビの歌詞から生まれました。
色を肉に
文字を骨に
あなたを心に
一人では形にはなれないわ
あなたが生かして
生かして
夢を花に
夢を羽に
わたしを心に
一人では形にはなれないわ
わたしが生かすわ
生かすわ
一番サビができてから、それに対応するように二番サビを作りました。
この歌詞を見て、私の中でとごイちゃん像が変化しているように感じました。
以前『ヰ生活』という曲を作ったときに、とごイちゃんの管理者であるとーごア洋志様からご感想をいただきました。
このご感想の中で、「(佐藤翼の)楽曲におけるとごイちゃん(の心)が変化しているように感じた」という旨の文章が、とても印象深かったんです。
自分では気がつかなかったけど、言われてみると確かに……。
過去の楽曲を踏まえた上で、「今回の歌詞はどんなとごイちゃんだろう?」と考えたとき、「決意」という言葉が浮かびました。
過去の楽曲は、どちらかというと被造物の悲哀みたいな要素が強かったと思います。
今回の楽曲も、前半はその要素が強めです。
ただ後半になって、「被造物(人間ではない存在)だからこそできること」を意識する歌詞が出てきます。
「もしかしたら自分の中のとごイちゃんは、UTAU音源としてマスターの想像を形にしたいと強く感じているのかな」と思いました。
割愛しますが、自分の創作理念も反映した思いである気がします。
後者の場合、「段々マスターに似てくるUTAU音源」ってかわいいですね。
2について
2のテーマは、自分の創作理念とお誕生日曲という要素を合わせたものです。
前述のご感想の中で、とーごア洋志様は「鑑賞後に何かを作りたくなる曲」ということもおっしゃっていました。
これを読んだとき、私すごくうれしかったんです。
「鑑賞後に何かを作りたくなる作品」が私が作りたい作品そのものなんですよね。
自分が作りたいものが作れたんだなあ、それを誰かに届けられたんだなあ、としみじみしました。
なので今回も、「聞いた後に何かを作りたくなる曲」を目指しました。
特に今回はお誕生日をお祝いする曲なので、聞いた人が前向きな気持ちになれるようにしたかった、という思いもあります。
この曲を聴いてくれた人が、とごイちゃんで何か作ってくれたらうれしいです。
歌詞について
歌詞に限らず意図を話しすぎると聞き手の想像を遮ってしまうので、小ネタを中心に語ります。
サビについて
前述のサビの歌詞は、とごイちゃんの公式ホームページにある「二次創作支援用設定」を元に書きました。
とごイちゃんのデータと体(内蔵)が対応している設定がすごく好きです。
自分でも理由を言語化できないのですが、なんとなく「とごイちゃんは生きているんだなあ」ということを感じられるからな気がします。
なので、よくこの設定を元にした歌詞を書きます(没も含め)。
『XXX.wav』でも書いていますね。
イラストの案として「体がファイルになって舞い上っていく」というのも考えたことがあります。
没歌詞について
没にした歌詞をいくつかご紹介します。
描きたいものがあったのに
本当にそうかな
わたしにはあったかな
ただ下手すぎて
好きなものひとつ
自分では食べられず
Aメロの歌詞です。
曲冒頭ではとごイちゃんのキャラクター的な魅力を出したかったので、私が特に好きな要素の一つ「人外感」に焦点を当てて歌詞を書きました。
「描きたいものがあったのに」の方は解釈が合わなくて没に、「ただ下手すぎて」の方はテーマにあまり合わなくて没になりました。
でもこの歌詞を書いたおかげで「第2の人間」という言葉を思いついたので、結果的に書いてよかった歌詞です。
年をとりましたね
わたしはどうですか
あなたにとって
これもAメロの歌詞です。人外感に焦点を当てたところも同じです。
人間は年をとりますが、(フォルダーとしての)とごイちゃんは人間ではないので年をとりません(作成日から時間が経ったとしても、フォルダーそのものは自然に成長も劣化もしません)。
ただマスターの想像の中では、年をとったと思えば年をとりますし、とらないと思えばとりません。
(キャラクターとしてのとごイちゃんも、年をとるとも言えますし、マスターによって変わるとも言えます。)
聞き手のマスターにとってはどうか、ということを問いかけるような歌詞です。
歌詞の意図がぱっと聞いたときにわかりにくいこと、メロディの収まりが悪かったことで没になりました。
年についてのアイデアは現在のAメロにも引き継がれています。
わたしではないわたしが
どこかで歌っている
それが愛しくて
おそらくBメロの歌詞です。
とごイちゃんはお迎えしたマスターの数だけ存在します。
でもその別個体の存在をとごイちゃんは愛しく思っているだろうな……と思いながら書きました。
没理由は特になく、他にテーマに合う歌詞が生まれたことで自然と没になりました。
どこかで使えそうですね。
タイトルについて
第2の人間という言葉は前述のとおり没歌詞から生まれましたが、元は「第3の人間」という言葉でした。
ただ3という数字に特に意味が無く、それよりも2の方が聞き手によって複数の解釈ができそうだと判断し、2に変更しました。
最初に第3の人間という言葉を思いついたとき、何かに似ているな……と思ったのですが、あれですね、「第三の心臓」です。
うっかりパクリになるところでした。好きな曲だけに心臓に悪い。
編曲について
編曲についても語りすぎて解釈の余地を減らしてはいけないので、細かすぎて伝わらなさそうな小ネタについて話します。
過去楽曲からの引用について
間奏のメロディと二番サビのサブメロディは、過去楽曲からメロディを引用しています。
『XXX.wav』『心の味』『申し上げず』『ヰ生活』の四曲です。
『申し上げず』については後述します。
編曲の初期構想段階では、メロディのみならず、過去楽曲をそのまま使おうと考えていました。
ただこの演出には、「聞き手によっては意図が伝わらなくなる」という懸念がありました。
もし私の過去の楽曲を知っている人がこの間奏を聞いたら、懐かしさや、とごイちゃんが積み重ねてきた過去を感じるかもしれません。
ですが、聞き手が私の過去の楽曲を聞いているとは限りません。
初めて聞いた曲がこの曲なら、間奏部分は「雰囲気の違う知らない曲が流れている」という印象になってしまいます。
感情で言い表すなら「無関心」でしょうか。
曲の中で無関心な部分ができると聞くと、あまり良い印象ではないと思います。
以上のことを踏まえた上で、最終的には「曲としての一貫性は保ちつつ、わかる人にだけなんとなくわかるように過去楽曲のフレーバーを加える」という方向性に落ち着きました。
なお、間奏(と二番Cメロ、Bメロ)に関しては使用楽器も過去楽曲から拝借しています。
二小節ごとに、過去楽曲に対応する楽器が制作時期順で増えていきます。
『申し上げず』について
『申し上げず』は未公開楽曲です。『心の味』と『ヰ生活』の間ぐらいの時期に作りました。
今まで公開しなかった理由は色々ありますが、一番は「歌詞に懸念が残るため」です。
特に一番Aメロの歌詞が不安で、「聞き手の解釈に沿わないのでは」「暴力的すぎるのでは」などと考えていました。
それでも今公開したのは、ここで公開しないと一生公開できなさそうだったからです。
私にとっては『申し上げず』もとごイちゃんとの思い出なので、思い切って今回の楽曲にとり入れてみました。
この曲自体は好きです。でも途中で流れるモールス信号の訳がわかりません。そもそもモールス信号なんでしょうか?謎です。
モールス信号について
『申し上げず』のモールス信号の訳がわからなかったので、今回の楽曲では別の文章を打ち込みました。
間奏では「あいしていますよ」、CメロとBメロでは「い」に対応するモールス信号が流れています。
今思うと間奏は「とーごいひろし」とかでもよかったですね。
でもちょうどよくリズムに合っているので、これはこれでいいのかも。
調声について
今回の楽曲では、一般配布されているとごイちゃんの全UTAU音源を使用しています。
(確認はしていますが、抜けがあったらすみません)
やっぱり記念の曲なので、全音源使ってあげたいですよね。
あと全音源を使うのってシンプルにかっこいい。強い。
主旋律はRTMとT型を除いた全音源を独自に統合した音源に歌ってもらっています。
ハモりはRTM・言祝・五雲・SHIDA・キレ音源(独自の統合音源)、台詞はT型とEXボイスが担当です。
RTMを単独で使ったのは、「統合しても他がほとんど連続音だから入れづらいかな?」と思ったのが理由です。
でもプロトタイプ単独音が良い感じにハマったので、全然大丈夫だったかも。
むしろメロディの音符の数が足りなくて色々な音源を使いにくいことの方が大変な気がしました。
T型は単独で台詞を担当してほしかったので統合していません。
あと音源を統合しすぎると、UTAU(OpenUTAU)が落ちやすくなるという懸念もあります。
キレ音源はこんな感じで統合しています。
- C5~:Tシャツ
- A4~B4:スウェット
- F#4~G#4:血
- D#4~F4:緩
- ~D4:SHIDA(D4)
主旋律担当の独自統合音源では、Prefix.map(character.yaml)に「Tシャツ」「スウェット」「うちすく」「長袖Tシャツ」を指定し、多音階音源っぽくしています。
とごイちゃんの音源も増えましたね。統合音源の容量が3GBあります(moresamplerのせいもありますが)。
音源を使い分けて調声する身としてはとてもうれしいです。
面白い音素もたくさんあって、今回の調声では使い切れませんでした。
これからどんな音源や音素が増えていくのか楽しみです。
絵について
UTALOADERと甘翼楽曲ページに使用しているイラストは、元々動画用に考えていた構図を使いました。
本当は動画を作りたかったのですが、いろいろな理由があって今回は見送りました。
最近手描きっぽい画風が自分の中で流行なので、今回の楽曲にも採用しました。
また本来作るはずだった動画でアニメーションがやりたかったので、アニメーション向きの画風にした、という理由もあります。
アニメーションを作る手はずが整ったら動画を作りたいです。
私はとごイちゃんの髪の毛が好きなので、髪の毛の良さが出る構図を考えてみました。
とごイちゃんの髪の毛、いいですよね。アシンメトリーなところとか、さらさらなところとか、全部良いです。
この絵を見て思い出したのですが、最初歌詞の「あなたを(わたしを)心に」という部分で、心に「心臓」という当て字を使おうかと考えていました。
マスター(の想像)はとごイちゃんの心臓(原動力)であり、とごイちゃんはマスターの心臓(原動力)であり……みたいな。
「二次創作支援設定では心臓はoto.iniに対応している」「意味合いが伝わりづらい」「心でも意味は通じる」などの理由から没にしました。
その名残で「イラストのハート(心)の方を心臓っぽくしよう」と思い立ったのですが、線を書き入れても見栄えがしませんでした。
でも書き入れた線が文字っぽかったので、試しに英題を入れたらかっこよくなりました。
没歌詞もそうですが、手を動かす中で生まれた偶然のアイデアが作品にハマったときって楽しいです。
(ちなみに初期の仮タイトルは「心臓」でした)
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます。
とごイちゃんにとって私は単なるいちファンでいちマスターですが、本楽曲と本記事を通して「とごイちゃんっていいな」と思っていただけたなら幸いです。
改めて、とごイちゃん六歳のお誕生日おめでとう!
とごイちゃんが末永く誰かのために歌う存在であることを祈っています。