『悪魔の正しい死に方』制作記録四
進捗
小説本編・番外編を執筆しました。
現在は校正をしています。
小説について
最終的な文字数は約十三万字でした。当初想定していた文字数の約1.5倍にまで膨れ上がってしまいました。
予測と最終文字数が合わなかった主な原因は以下の三つだと考えられます。
- 長編執筆の経験・データが無かった。
- 文字数想定後、当初想定していたプロットに新しいシーンをいくつか追加した。
- プロットにおける一シーンの長さがシーンによって違った。
1について
1についてはどうしようも無いと思います。経験は他の何でも埋めることができません。
逆に今回の経験を次回以降の予測に生かしていきます。
2について
2については、物語をよりわかりやすくするためにシーンを追加したため、文字数が予測から外れる、という点ではどうしようも無かったと思います。
ただし以下の能力が自分に無かったことを自覚しました。
- 伝えたいことがどれくらいの文字数で伝わるかを判断する力
- 執筆速度と推定作業時間から最大何文字執筆できるか予測する力
当初私は、自分が伝えたいことを伝える文字数と、作業時間から逆算した執筆可能文字数は、どちらも八~十万字だと考えていました。
ですが伝えたいことをより伝えやすくするためにシーンを追加=文字数を増量することになりました。また作業時間から逆算した執筆可能文字数はもっと多かったです。
前者の能力は、制作記録一で紹介した「映像作品を想定して文字数を決める方法」でまかなえると考えています。
悪たしは元々二時間の映画作品を想定して物語を組みました。二時間映画を小説化した場合、大抵は十二万字ほどの長さになります。
今回のケースと概ね一致するため、次回作以降もこの方法は使えると判断しました。
後者の能力は、後述しますが、プロットのシーンから文字数を割り出す方法で補えると予想しています。
3について
3については、もしプロットの組み方を工夫していれば、プロットから文字数がある程度予測できたのではないかと考えています。
制作記録二で紹介したプロットの一部です。
一列が一つのシーンを表します。シーン数は最終的に96個になりました。
シーン一つにつき平均千五百字書いていたと、体感で思います(正確な計測はまだしていません。短編などの経験も合わせた感覚で判断しています)。
シーン数×平均文字数は約十四万字になります。±一万字程度であれば、誤差であり、文字数予測に使えると私は思います。
ただし、文字数予測という点において、今回のプロットには問題点があります。
「一シーンの長さにかなり幅があること」です。
例えば、シーン0「安藤と黒永が再会する」は、約千字あります。
シーン1「安藤と黒永の日常」やシーン2「安藤と死神の会話」は約二千字です。
逆にシーン5「安藤の黒永殺しに対する葛藤」は二百字弱しかありません。
画像にはありませんが、あるシーンは一万二千字近く文字数があります。
ここまで幅があると、シーンからの文字数予測は難しくなってしまいます。
対策としては以下の方法が挙げられます。
- 一シーン辺りの文字数を統一する(シーンで書きたい内容からある程度文字数は予測可能、特に経験を積んだ場合)。
- 悪たしのシーン文字数の平均を出し、次回作以降で計算に使用する(外れ値は排除)。
- 一シーンをさらに分割し、文字数計測が可能な単位にしてから計測する。
個人的には3の手法に2の手法を組み合わせて運用したいと考えています。
現在のプロット構成において、1の手法はあまり最適では無いためです。
制作記録二で紹介したとおり、私は五幕構成という手法でプロットを作成しています。
これは私にあったやり方だと感じていて、しばらく変えるつもりはありません。
また、プロットのシーン名はエクセルのセル一つ分(このレイアウトでは最大二十字)に収めることにしています。こうすることで後で見返したときにわかりやすいですし、プロットを簡潔に書くことができるため、プロット構成にかかる時間を削減することができます。
五幕構成とシーン名字数制限という手法は、一シーンの文字数統一という手法と相性が悪いと感じました。
一方で、2、3の手法は既存の手法とバッティングしないように感じます。
今作での良かった点や反省点を生かし、次回作ではより効率的な制作手法に洗練させたいです。
進捗管理について
進捗はExcelとGit(Git Hub)で管理していました。
※Excelの表・グラフは紹介用に作ったものです。
Excelは字数管理、Gitはバージョン管理に使用していました。
Excelについて
Excelは字数管理にかなり向いていると感じました。
執筆文字数を表やグラフという方法で可視化できるのがよかったです。
グラフでは、「一日の執筆目標文字数」と「その日執筆できた文字数」を記録していました。
例えば一日の執筆文字数を五千字とします。
一日五千字ずつ増えていく単純なグラフを作成します。
この執筆目標グラフを超えれば「ノルマより進んでいる」、下回れば「ノルマより遅れている」と視覚的に判断することができます。
数値で表にしてもいいのですが、やはりぱっと目に見える形で表現されているとわかりやすいです。
今回私は一日の作業時間がある程度統一されていたため、この手法を使うことができました。
しかし一日の作業時間が一定でない方には、この進捗管理法はあまり向いていないかもしれません。
ただし工夫することはできます。
例えばノルマを一週間単位で設定し、一週間で書けた文字数と比較する、という手法が挙げられます。
「平日には時間があまりとれないが、休日はかなり時間をかけられる」方などは、この手法で対処可能です。
Gitについて
バージョン管理はGitを使用しました。
Gitとは、すごくざっくり言うと、ファイルのバージョンを管理するシステムのことです。
バージョン管理というと、ファイルをコピーして、名前を日付などに変更する手法が一般的かもしれません。
しかしこの方法には以下に代表される欠点があります。
- どのファイルが最新版かわからない(色々なファイルに「最新版」「これが最新」「○月×日(最新)」などが書かれている、など)。
- ファイルが多くなりすぎる。
- ファイル数を削減すると一部バックアップが失われてしまう。
Gitではファイルをコピーせずとも、過去のバージョンを保存することができます。
またGitでは、他の作業環境と状態を同期することや、他の作業環境の変更を別の作業環境に反映することなどができます。
このファイル同期システムは、執筆ソフトに組み込まれていることもあります。
ただ、「そのソフトを使わなければいけない(ソフトの選択肢が狭まる)」「履歴が全部残るとは限らない(有料版で全履歴解放、などの制限がある場合も多い)」という問題が発生することがあります。
Gitを用いれば、執筆ソフトには何を選んでもよいですし、作業環境に履歴が残っている限り、過去の履歴をすべて参照することができます。
また「特定のバージョンまで状態を戻す」「別の分岐バージョンを作って、後で大本のデータに反映させる」ということも可能です。
小説における活用法としては以下が挙げられます。
- 書き進めてみたけどやっぱり合わなかったので前のに戻す。
- 重大なミスが発生したため、ミス発生前の状態に戻す。
- 色々な案を用意しておいて後で選別する。
- 他の作業環境での変更を安全に反映する。
小説を執筆される方向けのGit(GitHub)の紹介は、以下の記事がわかりやすかったです。
Gitを使うためのソフトは色々ありますが、私はForkを使用しています。
色々試した中で、一番UIが見やすく、使いやすく、何より差分が確認しやすいことが魅力的でした。
Gitを使うだけなら、CUIやGit GUIで十分だと思います。私は変更した文章の、変更した文字だけの差分が確認したかったため、Forkを導入しました。
校正について
校正は以下の手段で行っています。
- Mery上で読んで編集
- 組版したPDFをタブレットで閲覧、ペンで書き込んで校正
- 紙に印刷して読みながらペン入れ
- 音声化したものを流し聞き
- Novel Supporterを用いた解析
基本は組版したPDFをタブレット上で読みながら、ペンで書き込んで校正しています。
悪たしでは行っていませんが、スマホでも可能です。
各手法の利点は以下の通りです。
手法 | 利点 |
---|---|
タブレット・スマホ | 印刷代がかからない、実際のレイアウトで確認できる、座る以外の姿勢で読める |
紙 | 電子上では気がつかないことに気がつく、用紙さえあれば実際のレイアウト・サイズで確認できる |
音声 | ソフトさえあれば手軽に校正可能、ながらで校正できる |
Novel Supporter | 機械的な判断が可能(人為的ミス減少)、目視では気がつかないことに気がつく、他類似サービスとは違い無料 |
補足が必要な事項について解説します。
紙の利点
やはり実際に印刷して読むと、電子上では気がつかなかったことに気がつきます。
人間は実際に手を動かしたり物に触れたりすることで、判断力や記憶力が向上すると聞いたことがあります。
紙代やインク代が許すのであれば、印刷して確認してみることをおすすめします。
音声の利点
私はVOICEROIDというソフトで読み上げ音声を作成しています。
キャラクターは月読アイという子です。
何かをしながら聞ける、ということが音声による校正の利点だと思います。
私は『愛とはあなたを破壊する魔法』という作品の絵を描いているとき、ずっと悪たしの本編読み上げ音声を聞いていました。
音声を聞いていると、「ここは間違っているな」「ここもっとこうした方がいいかな」、というところがぼんやりと浮かんできます。
逆に本格的な校正には向いていないかもしれません。
音声だけを聞いて校正している最中、かなりの誤字脱字を聞き過ごしていました。
またソフトにもよりますが、読み間違いが頻繁に発生します。特に固有名詞で顕著です。
ミスでは無いところで引っかかり、集中が途切れることがあります。
また月読アイ特有の問題として、「発音が拙く誤字と聞き分けがつかない」ということがあります。
月読アイは五歳という設定なので、かなり発音がたどたどしいです。
「表情」を「ほーじょー」と読みます。
とてもかわいらしいのですが、校正においては紛らわしいです。
また、これは原因不明なのですが、長文音声を生成しようとすると、謎のエラーでソフトが強制終了してしまいました。
これはテキストファイルを分割することで解決しました。
音声による校正は、メインの校正手法としては心許ないです。しかし何かと兼ねて行うには手軽で、目視による校正とは違った視点から校正することができます。
Novel Supporterについて
Novel Supporterは小説推敲補助ソフトです。
小説を多種多様なツールで分析することができます。
ツールのうち、「文章警告」ツールを使うことで、例えば以下のようなミスを発見できます。
- 字下げ有無
- 文末の不備(不要な記号が入っている、句点で終わっていないなど)
- 漢字間違い(「嫌みと嫌味」など)
- 不正な記号(予期せぬ場所にある半角空白など)
これらは目視でも確認できますが、校正に慣れていない人間では見落とすことがよくあります。
機械的な分析では見落とすという概念が無いため、ミスを発見しやすくなります。
Novel Supporterでは他にも、「表記揺れ(一人称のミスなど)」「文末の重複」「文章の感情の流れ」の分析などが可能です。
このような小説分析サービス・ソフトは他にもありますが、有料の物や字数制限がかかっているものが多いです。
無料かつ字数制限が無いところがNovel Supporterの利点です。
なお記号の不備などは正規表現による置換でも対処することが可能です。
例えば空行を字下げしてしまった部分を一括置換で削除することができます。
探すという工程を省くことで、そもそもミスが発見できないというミスを減らせます。
今後について
小説の校正や表紙の作成、組版などを行います。
入稿データが完成次第、入稿します。
並行してWeb版展示ページや書籍版頒布ページなどを作成します。
作業に終わりが見えてきてほっとしています。
ここで気を抜かず、細部にまで注意を向けて作業をやり抜きたいと思います。
引き続き頑張ります。